集団認知行動療法

グループで学ぶ認知行動療法

考え(認知)と行動を見直すことを通じ、関連する「感情」「体の状態」を整えていくのが認知行動療法です。

 

代表的な「別の考え方(認知)」を探す「認知再構成」以外にも、行動面に着目していく複数の技法があります。

 

これらの技法を、3時間×8回で、グループで総合的に学習します。学んだことを実生活に生かすのが最終的な目標です。

 

現在、集団認知行動療法は「こころリワーク」の中のプログラムとして提供しています。

当院では、精神科ショートケアによる「集団認知行動療法」をおこなってまいりました。これは、週1回、全8回で行う、包括的に認知行動療法の技法を学習、習得していくものになります。

集団認知行動療法とは

  

文字通り、「認知(考え)」と行動を調整することによって、感情などの精神状態の改善を図る精神療法です。(詳細は「認知行動療法」参照)薬物療法と並んで、「うつ病」などの治療、再燃予防に有効性が高いとされている治療法です。当院の外来治療においても、行動活性化や「考えのくせ」など、認知行動療法の考えを土台にしていますが、時間的な制約もあり、全体像を扱う事には困難があります。

この「集団認知行動療法」では、全8回の内容を通じて、よく知られる「認知再構成」以外にも、問題解決や行動活性化など、考え・行動を通じた、症状改善やストレス対処の方法を包括的に扱っていきます。

 

集団認知行動療法の概要

  

集団認知行動療法は、週1日、3時間実施されます。プログラムは、全8回で構成されています。8回で1まとめになっていますが、各回ごとに内容は独立しているので、特定の回の参加でも、一定の効果が見込めると考えます。

 

集団認知行動療法の対象者

うつ病、適応障害等で治療し、認知行動療法の適応になる方が対象になります。具体的には

などが対象になります。ただし、集団療法との相性があるため、人によっては個人療法のほうが望ましい場合があると考えます。

  

なお、現段階では、「当院受診中」の方が対象になります。(包括的なリハビリの観点から、他院通院中の方は当院への転院が必要になります)復職を希望の方は、「こころリワーク」でほぼ同様の内容を扱うため、こころリワークの利用をお願いいたします。

 

集団認知行動療法の目標

①うつ病、適応障害等の症状改善

  

たとえば「自己否定的に考えすぎてしまう」など、考えや行動のくせでストレスが続き、その結果抑うつ症状が持続する場合があります。認知行動療法を習得することで「考えのくせ」や「行動のくせ」を調整することを通じて、感情の症状や自律神経症状などの改善を見込みます。

  

②うつ病、適応障害等の再燃予防

  

考えや行動のくせがあると、ストレスがたまりやすくなったり、発散が難しくなる場合があり、それが(一度改善した)うつ病や適応障害の再燃の引き金になることがあります。認知行動療法の習得によってストレスに対処しやすい認知・行動のパターンを取ることによって、ストレスの蓄積を防ぎ、再燃予防を図ることを目標とします。

  

③様々なストレスへの対処能力の改善

  

何か物事に取り組もうとすればするほど、様々なストレスがかかってきます。認知行動療法の技法の習得によって、かかってくるストレスをうまく受け流したり、たまったストレスを効率的に解決・発散したりすることにより、様々なストレスへの対処能力を改善し、より積極的な生活を目指すことを期待します。

 

集団認知行動療法の参加について

  

当院受診中の方については、主治医と相談のうえ、参加の有無について決定していきます。(集団プログラムには相性があるため、その点も含め検討します)これまで他院受信中の方は、まず当院外来を受診し、その際に当院担当医と相談のうえ、参加を決めていくことになります(集団全体との相性、相互作用を踏まえ、参加の適性につき、当院で検討することがあります。ご理解のほど、お願い申し上げます)

 

集団認知行動療法の費用について

健康保険の適応になります。1回ごとに、3割負担で約1300円、1割負担(自立支援医療を使用)で400円強が目安です。

 

集団認知行動療法の具体的プログラム

  

具体的には、以下のような全8回のプログラムで構成されます。全8回で1クールですが、1回ごとに完結しており、途中参加が可能です。(途中で終わる場合は、資料等でフォローの方向です。内容は一部変更の可能性があります)

 

集団認知行動療法の詳細

第1回:自分の頭のメカニズムを知る(概論、マインドフルネス)

  

認知行動療法は、日常の出来事とその反応に注目します。たとえば、急に悲しくなった時、その前をよく見てみると、実際には、怒られた(出来事)→やっぱり自分はダメだ(考え:自動思考)→悲しい(感情)といった流れがあります。こうした、出来事にまつわる脳の働きを、(先ほどの3つに、行動と体の感覚を加えた5つで)分解して考えていくのが、認知行動療法の基本です。このメカニズムをまず説明します。

 

第2回以降で実際の認知行動療法を行っていきますが、その土台として、「自分が今どんな状態か」気づく必要があります。第1回の後半で、自分の体の状態、感覚に気づく実習(マインドフルネス・エクササイズ)を行います。(このエクササイズは、形を変えて第2回以降も扱います)

  

第2回:考え方のくせに注目する(認知再構成法)

  

一般に「認知行動療法」として知られる、考え方のくせに着目する治療法です。要点としては、第一に、感情が動いた場面での「出来事→考え→感情」の流れを自然に感じ取れるようにすること、第二に、もし「自分を苦しめる考え方のくせ」があったら、別の視点を見つけて、「こんな考えもある」と見つける練習をすることです。この二つによって、不調時にある「くせでネガティブに考える→さらに落ち込む」悪循環を断っていきます。

  

第3回:行動パターンを見直す(行動活性化)

  

第2回では「考え方(認知)」を調整して気分の改善を図りましたが、ここでは「行動」を調整することでの改善を図ります。(不調時は考えを見つめることが難しく、行動から入る場合が多い)不調なときは、「やる気が出ない」ことから行動が減りがちですが、その結果「やる気が出ない→動かない→さらにやる気が出ない」の悪循環になってしまっています。

ここでは、まず日中にどんな行動をしているかを見直し、もし何か別のことをできる時間があるなら、何をしたいかをいろいろ考え、やってみることを選び、実際やることを計画します。そしてやってみてどうだったか、フィードバックをします。

  

第4回:問題を、負担なく解決する(問題解決技法)

  

もし考え方のくせで辛くなるなら、認知再構成(第2回)の方法が有効です。しかし、本当に問題が大きくて落ち込む場合もあります。その場合は、考えのくせを見るより、その問題自体を何とかする必要があります。この回では、たとえ不調時でも問題を解決できるために、「問題を分けて考える」「利点と欠点から分析する」の2つの代表的な問題解決の技術を扱います。

  

第5回:不安に段階的に慣らしていく(系統的脱感作法、曝露反応妨害法)

  

不安があったときに、それを「回避」してしまいがちですが、そうすると、短期的は楽になる一方で、その不安を克服することができません。克服のためには、回避の代わりにその不安に慣らす(脱感作)が重要です。ただし、急に強い不安がかかると逆効果になりうるため、段階的に、リラックス対策も並行しながら行うことが重要です。ここでは、パニック症の治療など不安全般に用いる「系統的脱感作法」と、特に強迫性障害で用いる「暴露反応妨害法」について扱います。

  

第6回:コミュニケーションを見つめなおす(アサーション、SST)

  

社会で生きるうえで「どう相手と交流するか」は良くも悪くも重要です。強く言いすぎるとトラブルになる一方、我慢しすぎるとこころの不調の原因になります。相手に配慮しつつ、必要なことはしっかり伝える「アサーション」の基本を踏まえたうえで、実際の場面でどのように話すか、行動療法の一つである生活技能訓練(SST)の方法も参考に検討していきます。

  

第7回:ストレスにうまく対処する(ストレスマネジメント)

  

社会生活には、様々なストレスが伴います。対処に失敗し、ストレスがたまり過ぎると、うつ病・適応障害を発症したり、症状の悪化を来します。逆にストレス対処に成功すれば、症状の改善も見込めます。このように、症状への対応で非常に重要なストレス対処(ストレスマネジメント)について、「ためない」「発散する」「耐性をつける」の3点から方法を探っていきます。

  

第8回:生きがい、支えを見つける(ACT入門)

  

ここまで7回は、考え、行動などを調整するテクニックについて扱いました。最終回では、その土台としての考えを扱います。「自分の支え(一番大事にすること)をしっかり見る」「そのうえで、現実を直視する」この二つは、近年の認知行動療法である「アクセプタンス・アンド・コミットメントセラピー(ACT)」で大事にすることです。そして、こころの不調時にはこの二つがぼやけたり、見失ったりします。この回では、これまで7回のアプローチを踏まえ、これから何を大事にして、どう現実を見ていくか、終了後のことも踏まえてみていきます。