発達障害
集団プログラム

発達障害の対処を系統的に学ぶ

発達障害に対しては特効薬はなく、得意を生かし苦手をカバーする取り組みを、日々継続して行っていくことが重要です。

 

その実践のため、このプログラムでは、3時間×4回で、発達障害特性とその対処法について、系統的、集中的に学んでいきます。

もくじ

 

発達障害の方への集団プログラムとは

近年、「大人の発達障害」について、急速に知られるところになっています。当院でも、「発達障害ではないか」「ADHD(注意欠陥多動性障害)かを知りたい」等のことで受診される方が多くなり、また、診断が確定した方もいらっしゃいます。

一方で、発達障害は「生まれてからの特性」であり、薬物療法のみでは解決には至らないことが多くあります。ADHDに対しては有効な薬がありますが、それでも薬単体では治療は完遂できないのが現状です。

発達障害を持ちつつ、生きやすくするために重要なのが「生活における取組みと工夫」です。様々な工夫や訓練を実践していくことによって、短所をなるべくカバーし、本来ある長所を最大限生かしていくことが重要です。

それに並んで重要なのが「二次障害を最小化すること」です。発達障害を持たれている方の生きにくさを拝見すると、むしろ本来の障害よりも「二次障害の強さ」で辛くなる面が大きいとさえ思えてきます。二次障害の緩和のために薬物療法が有効な事もありますが、重要なのは、特性をうまく生かしてストレスの蓄積を防ぎ、二次障害を予防・改善していくことになります。

重要でありながらも、なかなかその技術の提供を行っているところは少なく、当院でもこれまでは実践してこれませんでした。

この課題を踏まえ、当院では、2018年5月より、発達障害の方への集団プログラムを開始予定といたしました。時間をしっかりかけられる集団療法(ショートケア)の枠組みで、広範囲に及ぶ発達障害特性への対処・活用の方法を模索したいと考えます。

プログラムの概要

発達障害集団プログラムは、土曜日の午後1時より、各3時間実施されます。プログラムは、ADHDグループ、自閉症スペクトラム(ASD)グループとも各4回で構成され、隔週で行っていきます。なお、ADHD、ASD傾向の両方を合併している方は、双方のプログラムにご参加していただけると、効果が見込めると考えます。

対象となる方

原則18歳以上の方で、当院にて発達障害(ADHD,ASD)の確定診断を受けた・もしくはその傾向があると判断された方の中で、集団療法プログラムでの介入が望まれると、当院で判断した方が対象となります。(18歳未満の方はご相談ください)

特に発達障害に関しては、集団療法との相性があるため、人によっては個人療法等のほうが望ましい場合があると考えます。

なお現段階では、他院で診断を受けて加療している方は対象外であり、必ず当院で診察を受けていただき、そのうえで適応を判断する形を取らせていただきます。ご理解のほど、よろしくお願いいたします。

発達障害集団プログラムでの目標

①発達障害特性と、それに伴う生きづらさへの理解

発達障害の診断を受けても、その診断と、自らのこれまでの「生きづらさ」とが、はじめは実感を持って結びつきにくいことは多いと思われます。発達障害とは何か、対策も含めて系統的・包括的に学ぶことで、総合的に発達障害を理解し、ご自身の困りごととの関係を理解していきます。

②発達障害特性に対しての対処法・対策を知り、実践する

発達障害特性は、「治す(なしにする)」ことは難しい一方で、対策を様々にとっていくことで、「生きづらさ」は減らしていける可能性があります。様々な視点からの特性への対処法・対策を提示していきます。その中で、合う対処法を見つけ、実践を続けていくことで、生きづらさの改善を図ります。

③発達障害特性がありつつの社会適応を模索し、二次障害を最小化する

発達障害特性の難しさは、ともすると「性格」などと解釈されて、社会的に不適切との判断を受け、そのストレスから二次障害に至る悪循環に至りやすいところにあります。一方で、発達障害特性自体は変えにくい中で、二次障害は、取り組みで防いだり、改善を図ることができる余地があります。そのためにできることは何か、模索していきます。

なお、このプログラムはその場で完結するものではなく、そこから始まっていくものと考えています。プログラムの中で様々な工夫・技法などを扱いますが、それをすぐその場で身につけるのは限界があります。むしろプログラム終了後、日々の生活の中で、合う方法を反復して実践していくことで、より効果があがっていくと考えます。

参加について

当院受診中の方については、主治医と相談のうえ、参加の有無について決定していきます。(集団プログラムには相性があるため、その点も含め検討します)これまで他院受診中の方は、まず当院外来を受診し、その際に当院担当医と相談のうえ、参加を決めていくことになります(集団全体との相性、相互作用を踏まえ、参加の適性につき、当院で検討することがあります。ご理解のほど、お願い申し上げます)

第1クールは、ADHDグループが5/12.26,6/9.23の予定、ASDグループが5/19,6/2.16.30の予定です。

費用について

健康保険の適応になります。1回ごとに、3割負担で約1850円、1割負担(自立支援医療を使用)で600円強が目安です。

具体的なプログラム

具体的には、以下のような、各グループごと全4回のプログラムで構成されます。(内容は一部変更の可能性があります)

具体的な内容(ADHDグループ)

第1回 総論(ADHDについて)

注意欠陥多動性障害(ADHD)は、不注意、多動性、衝動性を特徴とする、幼少期から持続する発達障害です。それが生活にどのように影響して、どう「生きづらく」なるか。まず第1回では、ADHDの症状や治療法、社会資源など、全体像を学習していきます。そのうえで、全体的な、取り組み(リハビリ)の方向性を見ていきます。

第2回 不注意への対策

不注意は、大人になっても残ることが多く、かつ仕事が始まってから、ミス等の形でむしろ目立ってくることも多い症状です。脳の機能的な特性のため、不注意の傾向自体をなくすことは難しいですが、様々な工夫や注意訓練によって、社会生活での実害はかなり減らすことが見込めます。この回では、不注意改善のための注意訓練、実害を減らすための生活上の工夫について扱っていきます。

第3回 衝動性・多動性への対策

多動性・衝動性は、幼少期よりは改善することが多い一方で、社会的には(性格的な)問題とみなされ、不利益に至ることも多い症状です。特に、怒りの衝動性は、トラブルの原因にもなり、対策が特に重要です。これもすぐ効果を出すのは難しいですが、継続することで、徐々に改善を図る試みはできるかと考えます。

この回では、多動性、衝動性改善の方向性として、マインドフルネスの導入、動機づけ(コミットメント)での対策、怒りへの対策(アンガーマネジメント)について扱っていきます。

第4回 二次障害を防ぐために

第2回、第3回でも扱うように、ADHD特性そのものは対策を取ることで、影響を減らすことが見込めます。しかし一方で、特性から誤解を受けたり、失敗したりを繰り返すと、二次的に落ち込みやイライラ等が悪化して、より「生きづらさ」が増してしまうことになります。この「二次障害」を防ぐ事が非常に重要です。ADHDではその特性上「成功体験」をつかみ、「失敗体験」を減らすことが、他の障害と比べても重要な対策になります。「成功体験の獲得」を柱に、二次障害への対策を考えていきます。

具体的な内容(ASDグループ)

第1回 総論(自閉症スペクトラム(ASD)について)

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、社会性の障害、こだわりの障害等を特徴とする、幼少期から持続する発達障害です。それが生活にどのように影響して、どう「生きづらく」なるか。まず第1回では、ASDの症状や治療法、社会資源など、全体像を学習していきます。そのうえで、全体的な、取り組み(リハビリ)の方向性を見ていきます。

第2回 「社会性の障害」の改善のために

自閉症スペクトラム障害では、対人交流におけるやりにくさ、言い換えると「社会性の障害」が幅広い分野で見られます。これはご本人の生きづらさの要因となるのみならず、社会からの誤解等をまねくこともあり、二次障害悪化の誘因にもなります。

こうしたことはとかく「センス」とみなされ、あきらめられることもあるようですが、この点について当院では「対人交流技術」として、反復練習等で改善できる点も少なくないと考えます。

対策としての、「評価を受けられるための表現技術」「理詰めでその場に必要なことを推定する」「意識的に相手の視点で考える練習」「あいまいさをうまく明確化する技術」などを、この回では扱います。

第3回 「こだわりの障害」等の改善のために

「こだわり」はうまく生かせば、反復練習などに生かして強みにもなりえます。しかし一方で、しばしば誤解や他者とのトラブルの引き金になってしまう症状でもあります。「自分」の視点を主張してこだわると、特にうまくいかないことが多いと思います。

マインドフルネスなども導入し、他者や全体の視点(俯瞰の視点)を取ろうと常に意識することで、相手についても理解し、「こだわり」を相手への攻撃ではなく、建設的なエネルギーとして使えるようになる方向性を目指します。この回では、合わせて「同時処理の苦手さへの対応」「得意・苦手のばらつきの理解と活用」「感覚過敏への対策」を扱う予定です。

第4回 二次障害を防ぐために

自閉症スペクトラムの特性自体は、難しさはあっても、取り組みで改善する余地はあるものと考えています。一方で、特性があまりうまくいかない形で働くことで、社会的に様々な誤解を生み、その結果自己肯定感が下がる等で、慢性的な二次障害をきたすことは、残念ながら少なくはないのが現状です。どうすれば周りからの誤解等を減らし、悪いフィードバックを減らすことなどから、二次障害を減らしていけるか。そのための方法論を、この回で模索していきます。