大人の発達障害

生活・人間関係等の生きづらさ

不注意・衝動性(ついやってしまう)等が特徴のADHD(注意欠陥多動性障害)とこだわり・対人の苦手が特徴の「自閉症スペクトラム障害」があります。

 

からだの原因を除外のうえ、問診(幼少期の状況など)、行動面の観察、心理検査の3つの側面を総合して診断していきます。

 

幼少期からの特徴のため、長所を生かし短所をカバーする取り組みの継続が基本になります。ADHDには有効とされる薬があります。

  

発達障害に関する話題が、幼少期、学生時代、成人の各段階で注目されるようになってきています。原則「早期発見、早期対策」が重要とされる一方で、学生時代までは気づかれず、就職後に、ミスや対人関係の困難をきっかけとして発見されることもあります。そして、治療・対策の重要な点として「二次障害(二次的な精神・行動面の不調)」を防ぐ事が重要です。気が付いた時点で、早めの診断、対策を取ることが望まれます。

もくじ

 

定義:発達障害とは

生まれながらの、脳の機能の発達のかたよりに伴う障害です。

幼少期から、「発達の特性」として症状が出現する障害のことを指します。代表的なものとして、ADHD(注意欠陥多動性障害)、自閉スペクトラム障害があります。(なお、その他、学習障害等が含まれます)共通するのは「能力の偏り、得意と苦手のばらつき」等の,質的側面で定義されることであり、全般的な知的機能の遅れである「知的障害」とは区別されます。(ただし、合併することはあるとされ、「知的障害を伴わない発達障害」と「知的障害を伴う発達障害」の双方があります)

知的障害を伴わない発達障害の場合、一見して知的の遅れはないが、こだわりや集中困難などの質的な強い特性によって、学習や社会生活に大きな困難が出現し、援助が必要になります。

代表的な発達障害①:ADHD(注意欠陥多動性障害)

不注意、多動・衝動性を特徴とする発達障害です。

「不注意」「多動性」「衝動性」を主な症状とする発達障害です。具体的には、次のような症状が目立ちます。

 

大人になると、多動性・衝動性は改善していることが多いとされますが、不注意の症状は残りやすいとされます。そのため大人で初めて気づかれる場合は、不注意の症状がきっかけになることが多いとされます。一方で、「すぐイライラする」など、衝動性・多動性が、感情コントロールの問題として顕在化することもあります。

代表的な発達障害②:自閉症スペクトラム障害

こだわり、対人交流の障害が特徴の発達障害です。

「対人交流・社会性の障害」「こだわり(興味の狭さ)の障害」を主な症状とする発達障害です。具体的には、次のような症状が目立ちます。

幼少期から気づかれることが多い反面、そこで気づかれず、かつ勉強などができる場合は、他者との交流が少ないまま「個性」として学校卒業まで扱われ、仕事で上司などとの交流が義務になったときに、うまくいかずに気付かれることがあります。他者の視点がとりにくい場合は、「いじめられている」等の、被害的な解釈になることがあります。

二次障害について

失敗体験などから二次的に生じるこころの不調です。

ADHD、自閉スペクトラムの双方に共通しての症状として「二次障害」があります。これは、元の障害特有の症状とは異なり、不適応などのストレスが反復することによって、「二次的」に出現する症状です。二次障害には様々な症状がありますが、代表的な例は、以下のようになります。

これらの症状が強くなると、社会生活が困難になったり、事件などに発展するリスクに直結してしまう危険が生じます。一方で、これらは「生まれながらの特性」ではないため、環境の調整や早期対応などで予防を行ったり、発生したとしても改善を図る余地があるといえます。(劇的な効果の薬がないとしても)発達障害の早期診断、早期対応が望まれる大きな理由として、この「二次障害の発生・悪化予防」があります。

大人の発達障害への対策の基本:自己対処力を活用して悪化予防・改善を

 

「自己対処力」を活用し、弱点のカバーを図ります。

発達障害への対策の基本は「早期発見・早期療育」ですが、大人になって発見された場合は、その時から、取り組みを始めていくことが重要です。

大人で発見される場合は、「落ち込み」「イライラ」等、何らかの二次障害がすでに見られていることが多いです。一方で、大人まで発見されなかった場合には、「症状が比較的軽度」「カバーできる長所が多い」ことも多いため、長所である「自己対処力」を活用することで、二次障害の悪化予防・改善を図ることができうるでしょう。

発達障害の薬物療法について

ADHD、および二次障害に対しての薬があります。

発達障害のうちADHD(18歳以上)においては、症状自体の改善が期待される薬がすでに2種類使用可能になっており、相性を見つつ薬を使用することで改善につながる場合が多く見られます。

自閉症スペクトラムについては、直接症状を改善する薬はまだないのが現状ですが、落ち込み、イライラ、対人不安などの二次障害を緩和する薬があるため、状態によってはその使用によって、症状や社会生活の改善を図れる場合があります。

大人の発達障害:対策の2つの柱

自己対処と、サポート活用が二本柱です。

10代までの場合、弱点をカバーし、二次障害を予防するための、特性に合わせたサポートの仕組み(療育)が重要になりますが、大人においては、10代までと比べると生活でのサポート資源が少ないことが難点です。一方で、大人では、実生活において特性にまつわる苦労をしている分、自ら対策を取ろうとする動機はむしろ十分にあるともいえます。

こうした点を踏まえて、大人の発達障害においては、次の2つが対策の柱になります。

対策①:特性を踏まえた自己対処

「(病気の特性を)知る」→「(自分の症状に)気づく」→「(改善のために)練習する」の3段階で、取り組みを継続することで、改善の継続を図ります。

(段階1:発達障害について知る)

まず、発達障害とはどのような障害で、生活のどのような点で困難が生じるかについて、知ることが重要です。最近では、わかりやすい入門書も多数出ていますし、発達障害についての情報のあるホームページを見ることも参考になるでしょう。

(段階2:自分の症状に気づく)

段階1は一般論でしたが、次には、「自分の発達障害」はどのような症状かを振り返ります。たとえば、同じくADHDと診断を受けた人でも、ある人はミスや遅刻が問題になり、別の人は感情コントロールの困難(衝動性)が問題になるなど、人によって症状や困難の出方は異なります。自分の症状を振り返り、認識することで、その後取り組むべき課題が明確になります。また、自分の困難を振り返ることは、発達障害の存在を受け入れる事にもつながっていくでしょう。

(段階3:自分の課題の改善へ練習する)

自分の特性と困難を振り返ったら、あとはその改善のために反復して取り組んでいくことになります。ADHDの不注意にはメモやアラーム等の生活の工夫を反復する、自閉症スペクトラムの社会性には、理詰めで相手の考え、視点を理解しようとするなどの方法があるでしょう。ここで大事なことは、「じっくり・継続的に取り組む」ことです。行動や思考のパターンを改善するのは、すぐ結果を出すことは難しいでしょう。しかし、継続して取り組む事で、徐々にですが、確実に改善に向かっていくでしょう。積み重ねが大事です。

対策②:周囲のサポートの活用

対策①で徐々に特性の改善を図っていきますが、一方で特性と環境の相性の問題も重要です。なるべく、必要なサポートも検討しつつ本人の特性に合った環境にしていくことで、余分なストレスを減らし、二次障害の悪化を防ぐ事を図っていきます。具体的には、以下の方法があるでしょう。

(職場環境の調整)

自閉症スペクトラムの人ではどうしても対人関係が苦手など、カバーしきれない特性は一部残ります。その場合は、対人交流が少なく、一つの作業を深く行っていく仕事に変えるなど、本人の特性に合った職場環境の調整が望まれます。

(「障害者枠」の検討)

環境調整を行っても、特性(障害)が強いために一般の仕事が困難となる場合には、障害者枠での就職も、選択肢に入ってきます。ADHD、自閉症スペクトラムも、障害者枠が認められる状態になっており、確定診断を受けている場合には、手帳の所得、障害者枠での仕事探しが可能になります。ただし、一般枠と比べると給与面・やりがいでの弱点があること、求人数が限られているなど短所もあるため、一般枠・障害者枠双方の長所・短所を考えていくことが重要になります。

(就労移行支援事業所の検討)

特性(障害)が強く、かつじっくりと腰を据えてその改善や、合った環境探しに取り組みたい場合には、「就労移行支援事業所」が選択肢になります。最大2年の期間で、特性改善を目指したリハビリにじっくり取り組みつつ、様々な職場見学などを行い、自分に合った仕事を探し、合った仕事への就職・職場定着を目指していきます。(費用など詳細は、各就労移行支援事業所にご相談をお願いします)

大人の発達障害の診断について

「グレーゾーン」の診断になることが少なくありません。

当院でも、大人の発達障害の診断を行っております。これまでの経過等の問診、行動面の観察、心理検査類を総合して診断につなげてまいります。ただし、10代までと比べると、様々な人生経験等による影響が強いこと、および幼少期からの情報の取得にしばしば限界があることから、明確な診断にはつなげにくい場合(いわゆる「グレーゾーン」)が多くなる傾向に関して、ご理解のほど、お願い申し上げます。(ただし、診断が明確でなくても、その傾向に対しての行動面の取り組み等は、同様に有効な場合が多いと考えます)