休職に
なったとき

復帰後再燃しないことも重要

休職の第一の目標は、休養に専念して徐々に病状の改善をはかることです。そして、復帰に備えて、徐々に活動を戻すリハビリも重要です。

 

復帰も重要ですが、その後再燃しないことも重要。ストレス対処技術の獲得など幅広い対策が重要で、その一つの方法としてリワークプログラムがあります。

動画:うつで休職になったとき

 

もくじ

 

はじめに:休職になったとき

治療のため3か月ほど休職することがあります。

 

働く人がうつ病・適応障害の治療を行う中で、休職、つまり「一定期間(治療のために)仕事を休む」ことになる場合があります。うつ病等の治療においては、薬の治療の他に、「ストレスを減らし、頭を休ませる」ことが重要であり、逆に(仕事・会社生活も含めた)ストレスにより病状が悪化してしまうためです。期間は個人差がありますが、3-6か月になることが多いと思われます。

では、この「休職期間」は、どのように過ごすといいのでしょうか。

 

基本は休養、中盤以降はリハビリも重要

 

復職後、負荷に耐えられる状態が必要です。

  

まず、休職の理由は「ストレスと距離を取り、頭を休ませ悪化を防ぐ」ことですから、休養をしっかりすることが重要です。特に休職の前半では、考えすぎず「しっかり心身を休ませる」ことが大事です。

一方で、復職後再度仕事をすることを踏まえると、休養のみでは不十分です。「ストレスがかかっても再燃しない」状態を作るために、段階的に心身の負荷に慣らしていく、いわば「精神科的なリハビリ」が、特に治療の後半では重要になります。

  

復職も大事、「復職後」も大事

  

再燃を防ぐための内省や対処技術も重要です。

 休職の目標として「復職」はもちろん重要ですが、同様に重要なのは「復帰後再燃しない(再度休職しない)」ことです。厚生省研究班の調査によると、うつ病で休職した社員のうち半分弱(47.1%)が5年以内に再発、再休職に至ったとのことです。再発、再休職はご本人のみならずその家族、会社にも大きな影響を及ぼし、それを防ぐ事が重要です。

その対策の一つとして、「休職中にどのような取り組みをするか」が大事です。具体的には、(対人スキル等も含めた)「ストレス対処技術の獲得」や、自分や会社との関係性などに関した「内省」などが対策となりえるでしょう。

ここまでをまとめると、以下のようになります。

では、具体的な時期と対策などについて、より詳細に見ていきましょう。

  

休職の3つの時期

  

前期、中期、後期の3段階です。

ひとえに「休職」といっても、段階によって、状態や取るべき取組みは変化してくるため、状況を見つつ、分けて考える必要があります。具体的には、次の3つの時期に分かれます。

仮に休職期間を3か月とすると、前期、中期、後期各1か月となるのですが、病状、回復具合等によって個人差が大きいところでもあります。

では、具体的に、この3つの時期の特徴、対策を見ていきます。

3つの時期①前期(休養期)

 

何より休養が大事な時期です。

  

(特徴)

治療初期で、うつ症状が強い時期。ストレスにも敏感のため、何よりも「休養に専念すること」に重点を置く必要がある。

この時期は、別名「急性期」とも言われ、休職直後でうつ症状が強く、何よりも休養が重要な時期です。「寝てばかり(過眠)」でも「何もしない」状態でもいいので、ゆっくりと、特に「考え事をせず」休むことが大事です。

一方で、うつ病等の症状として「不安」「不眠」「罪悪感(自分を責める)」などがあるため、ともすると症状のために「ゆっくり休めない」場合もあり注意が必要です。なかなか休めない場合は、医師と相談し、必要なら睡眠薬や抗不安薬などの「休養を助ける薬」の使用を検討します。

(なお、それでも休めず病状が改善しないとき、症状のため自傷などの危険がある場合は、休養入院(病院に入院して休養すること)の検討が必要な場合があり、主治医との相談をお願いします)

3つの時期②リハビリ期

中期は、徐々に活動を増やすのが重要です。

(特徴)

休養の結果、「不安・落ち込み」などのうつ症状が改善した後の時期。一方で疲れやすさが強く活動しにくい状態でもあるため、徐々に活動を増やし、負荷に慣らしていくことが重要になる。

前期で休養をしっかりとれると、不安や落ち込みなどのいわば「急性期症状」が収まり、一見安定した状態になります。ただし、これはあくまで部分的な改善であり、「疲れやすさ」「ストレスへの敏感さ」などはまだ残っています。

この段階で重要なのは「段階的に活動を増やすリハビリ」です。まずは、散歩やストレッチなど、軽い体の運動から徐々にはじめていきます。目安は「少し疲れるが、翌日に残らない」強さです。繰り返すと徐々に慣れて疲れなくなるので、そうしたら負荷を増やし、また再度慣らすことを反復します。

体が動くようになったあとで(6-7割が目安)、徐々に頭を使う作業(読書、書類作成など)を開始していきます。うつ治療の観点からは、頭を使う作業の方が負担が大きいため、なるべく順番は逆にしないことが大事です。

ここで重要なのは「徐々に増やす」ことです。前期より良くなると「もう大丈夫」と、無理して活動を増やしたり仕事の振り返りをしがちですが、無理しすぎると再燃し、急性期に戻る恐れがあります。また、休養はすでにとれていても「無理はいけない」と休む事だけを続けると、ストレスへの耐久性がつかず、休職が長期化してしまいます。主治医と相談しつつ、バランスを見つつ負荷を増やすことが重要です。

3つの時期③調整期

最後に、具体的な復帰の調整等をします。

  

(特徴)

休養、リハビリがうまくいき、安定とストレス耐性が戻った状態。この段階で初めて、具体的な復職への振り返りや、復帰への具体的練習、職場との復帰調整を行っていき、復職につなげていく。

休養、リハビリを通じて、病状が安定し、ストレス耐性が戻ったうえで、心理的負荷のかかる具体的な復帰準備を行っていきます。

この時期のリハビリとしては、電車も含めた通勤練習や、仕事に近い内容を行うことで、復職後の仕事の負荷がかかっても大丈夫な状態まで整えていきます。また、再燃予防の観点から、自分の思考や交流のくせを振り返りながら、復職後に備えての各種のストレス対処技術の獲得を行っていきます。

これらのリハビリを行うと、以前のことを思い出し、心理的負荷がかかります。それに慣らすとともに、以前の職場(しばしばそれは復職後の職場)の振り返りを行い、どのような葛藤があるかを整理し、「今ならどうするか」対策も計画し、復帰後のストレスへの備えとします。そのうえで、会社側と、実際の復帰に関しての段取り(時期、勤務時間、異動の有無など)を行っていきます/。

ここで、「会社への葛藤が強い場合」があります。具体的には、休養もでき、日常も支障ないが、会社のことを思い出すと、その時だけ不調が強く、かつなかなか練習しても慣れない場合です。その場合は時間をかけて慣らすこともありますが、場合によっては、部署異動の相談や転職が望まれる場合もあり得るでしょう。

  

復職・復職後に必要な3つのこと

  

活動量・内省・ストレス対処技術の3つが重要です。

  

復職を行う際には、「復職できる状態にあり」、かつ「仕事の負荷・ストレスがかかっても再燃のリスクが低い状態である」ことが求められます。そのためには、具体的には、次の3つが必要になるでしょう。

では、この3つを具体的に見ていきましょう。

  

必要なこと①十分な活動量・生活リズム

  

仕事の負荷に耐えられる活動量が必要です。

  

まず復帰のためには、仕事の継続、つまり「週5回、1日8時間の活動」を安定して行うことが必要であり、それに準じた活動量と安定した生活リズムが必要になります。もし復職前の活動量が少ない場合、復職後急に活動(負荷)が増えることになり、慣れず再燃するリスクが高くなります。

必要なこと②振り返り・動機付け

仕事への「気持ちの整理」が重要です。

  

職場に復職することは、「休職する前の会社での労働に戻ること」であり、そしてしばしば「休職する前の職場環境に戻ること」でもあります。職場への葛藤が強いことが続くなら、復職後は毎日、その葛藤のストレスが続くことになり、再燃リスクが高くなります。

対策としては、休職前と今に関しての振り返り(内省)を行うことが重要です。どのような事がストレスになり、もし復職したらそのストレスにどう対策するかを整理していきます。また、特に復職後、今の会社での仕事を通じてどのように生きていきたいかを振り返っていきます。そうすることで復職後の予期不安や会社への葛藤を減らし、再燃リスクを下げていきます。

一方で、どうしても不安や葛藤が減らない場合は、配置転換の相談や転職の検討も必要かもしれません。

必要なこと③ストレス対処技術

 

自分を知り、苦手をカバーする対処技術を。

  

たとえ職場への不安・葛藤が減っても、実際復職後は仕事、人間関係など、様々なストレスが再度かかってきます。それに対応できないと、再燃の危険が高まってしまいます。

対策としては、考え方やストレス発散法など、自分の「くせ」を振り返ったうえで、対処力を高めるための様々な技術を身につけることが大事です。

考えすぎるくせがあるなら、別の視点を探す習慣(認知再構成、いわゆる「認知行動療法」)が有効でしょうし、ストレス対処法が少ないなら、休職中に様々な「自分に合った」ストレス対処方法を見つけることが有効でしょう。

  

集中的なリハビリ:リワークプログラム

  

活動・対処技術等を高めるグループ活動です。

  

このように、復職後再燃を予防しつつ充実感を持って生きるには、様々な角度からの取り組みが必要になります。一般の外来での診察では、主に病状の把握と全体的な症状への介入をすることになりますが、これまで述べたような総合的な取り組みをカバーすることは困難です。

それを補う、集中的なかかわりでの介入が、いわゆる「リワークプログラム」です。これは、医療機関などに定期的に通所し、1日3-6時間ほどのプログラムに定期的に参加する方法です。初期は少ない回数で慣らしつつ徐々に負荷(参加回数)を増やしていきつつ、各種のプログラムで活動量を増やしたり、各種のストレス対処法を学習、体験していきます。

前述のリハビリ期以降に参加していくことにより、

ことを目指します。

東京都にも10か所以上のリワークプログラムを実施している医療機関がありますが、当院でも、リワークデイケア「こころリワーク」を行っています。

  

自分でやるか?リワークを使うか?

  

リハビリに専念できるのがリワークの長所です。

  

実際には、リワークプログラムを活用する方もいれば、自主的に復帰への取り組みを行う方もいらっしゃいます。グループとの相性など、その人によって、どちらが適しているかは変わってくると思われます。

ただその中で、

ことについては、リワークプログラムを通じて復職を目指す事の強みと言えるのだと思われます。当院では、当院受診中、および他院受診中の方で休職中の方に対して、リワークデイケア「こころリワーク」を提供しています。

休職時に活用する主な2つの制度

  

休職をサポートする制度があります。

  

休職時にはあまり時間を気にせずじっくり療養・リハビリを行うことが重要ですが、生活のことが気になり、不安になるという声も多く聞きます。こうした方のために、社会的なサポートは様々準備されていますが、利用のためには、申請・手続きを行うことが必要です。

ここでは、特に利用頻度が高いと思われる2つの制度を紹介します。

  

制度①傷病手当金制度

  

病気休職中、給与の約6割が支給される制度です。

心身の病気のために労働ができないとき、給与の代わりに支給されるのが「傷病手当金」です。この心身の病気の中に、「うつ病」等のこころの病気も含まれます。

主に1月ごとに、「医師等の意見書」「事業主の証明」「本人の記載」を含めた「傷病手当金支給申請書」を、会社経由で提出することで、(2か月ほど時期は遅れますが)給与の約6割が支給されます。労務できない期間(休職期間)が支給対象となりますが、最大1年半です。

  

制度②自立支援医療制度

  

メンタルの医療費が3割から1割になる制度です。

うつ病等で通院の継続を要する方に関して、市町村に申請を行い認められた場合に、精神医療関連の医療費の2/3が軽減される制度です。(外来、薬のほか、デイケア(リワーク)も適応になりますが、血圧の薬など精神医療関連以外のものは適用外です)その人の病態、重症度などによっては適応にならない場合があるため、その点は主治医の判断が必要です。

具体的には、主治医から適応の判断を受けた後で、病院で「自律神経医療診断書」を受け取ったうえで、本人準備書類(申請書、所得証明の書類、健康保険証、マイナンバーがわかるもの等)を一緒に持参し、市役所(障害者福祉課など)に行き、手続きします。

  

まとめ

  

休職は、初期は休養、その後のリハビリが重要です。

休職をしての治療の目標は、「復職」のみならず、その後「再燃を防ぐ」ことも含まれます。そのためには外来での標準的な治療(外来での精神療法、薬物療法)も重要ですが、段階的な活動訓練、内省と会社への葛藤等の整理、ストレス対処技術の獲得といった、より包括的な取り組みの並行が望まれます。この取り組みを実践するために、一部の精神科・心療内科の医療機関で「リワークプログラム」が開催されています。