急な不安と動悸など体の不調が起きる「パニック発作」と、再度の発作への「予期不安」が特徴的です。
薬は、続けて使う「抗うつ薬(SSRI)」と、頓服で使う「抗不安薬」が標準的です。
さらに、徐々に不安に慣らす「系統的脱感作法」を、薬の効果等を見つつ慎重に行います。
当診療所でも、パニック発作など、パニック症の症状で受診される方が多くいらっしゃいます。早期に受診される方から、10年以上やりくりしつつ未治療で来られた方まで、様々な方がいらっしゃいます。
パニック発作は非常に強い不安を伴い、救急車を呼ばずにはいられない方もいらっしゃいます。一方で、メカニズムに生物学的要素(脳の物質の不調)が強いことが示唆され、適切な薬物療法と行動療法(系統的脱感作法)を組み合わせることが非常に有効で、最終的には薬が不要になる方も多くいらっしゃいます。こころの悩みの中でも、適切な治療の有効性が高い印象を持っています。
強い不安や体の症状を伴うパニック発作が有名ですが、その他も含め、以下のような症状で構成されます。
別名「自律神経発作」ともいわれ、突然の交感神経(緊張をつかさどる自律神経)の反応によって、強度の不安(死ぬのではないか、とも感じられる)のほか、緊張を伴った、動悸、冷汗、手のしびれなどの身体の症状が出現し、重度の場合は失神することもあります。電車の中や教室などの「抜け出せない密閉空間」で出ることが多いですが、夜、寝る前後で出る方もいます。体調不良の時など、1回はどんな方にも出ることがありますが、これが反復することが、パニック症の特徴です。
一度パニック発作が起きた後、「また発作が起きるのではないか」との不安が残ることがあり、これを予期不安と言います。パニック症の診断基準にも入っています。予期不安が強いと、結果としてパニック発作が反復しやすい状態に至ります。
予期不安が強まった結果、自分なりの対処として「発作が起こりそうな場面を避ける」ことがあります。短期的には発作のリスクは減るのですが、一方でその場面への予期不安が残り、さらには似た場面にまで予期不安が次第に拡大します。(電車が怖い→バスも怖い→乗り物すべて怖い、など)すると、次第に生活範囲が制限されてしまいます。人によっては、学校や職場に行けない、家から出られない、との状態に至ることがあります。
一見すると、パニック発作が一番つらく見えますが、長期的には③の生活の制限が一番生活や仕事に影響を与えます。発作を恐れて対処した結果、次第に生活範囲が狭まり、仕事や生活にも影響を及ぼす状態になること。これを防ぐのが、治療の本質的な目標です。
まだ厳密には判明していません。ただし、少なくともパニック発作に関しては心理学的要素は比較的少なく、脳の不安に関連するシステムの不調、誤作動による要素(生物学的因子)が強いとされ、不安に関連するセロトニンの影響が示唆されます。一方で、行動範囲の制限に関しては、心理学的要素が比較的強いといえます。予期不安は、双方の影響が示唆されます。
薬物療法と、行動療法が、治療の二つの柱になります。
パニック発作と、予期不安に関しては脳の不安に関連するシステムの不調が影響し、セロトニンの影響が示唆されます。その部分を整えなおすために、抗うつ薬SSRIが理論的に有効であり、実際も効果が得られています。
一言でいうと「徐々に、不安の状況に慣らしていく」方法です。行動の制限のところでは、「予期不安が強まる→その場所を回避する→さらに予期不安が強まる→回避の範囲が広がる」といった悪循環が形成されます。その悪循環を断つために、まずは軽い不安の場面を経験し、発作には至らない経験をすることで、「不安を経験→発作は起こらない→予期不安が減る」体験をし、これを、徐々に強度を強めながら反復することで行動範囲を拡大し、予期不安を減らしていきます。
「徐々に」ということがポイントで、発作が再発すると逆効果になる一方、軽い不安では練習にならないため、「不安は起こるが発作まではいかない」場面を設定し練習し続けることが要点です。
この2つの治療は、「どちらが正しいか」というものではなく、併用していけるものです。初期はまず脳の不調を抑えるための薬物療法をしっかり行い、次第に行動療法に重点を移していくと、うまくいきやすいです。次に、その3段階のプロセスを示します。
治療初期では、まず発作を最小にして、予期不安の悪化を食い止めることが重要になります。抗うつ薬(SSRI)を徐々に増やしていき、効果を見ていきます。生活への支障が大きい場合は、その場面のみ、抗不安薬を頓服で使用していきます。また、体調不良やストレスが悪化要因のため、生活リズムや睡眠の確保、およびストレス対策を並行して行っていきます。
SSRIの効果が出始め、発作や予期不安の悪化が食い止められた段階で、系統的脱感作法の開始を検討します。まずは軽いものから慣らしていき「不安があっても発作は起きなかった」経験で、自信を徐々に作っていきます。反復していくと、同じ経験では負荷が小さくなるので、徐々に負荷を上げていき、反復練習していきます。この段階では薬物療法は継続して行います。生活に支障ないレベルまで行動範囲を戻していくことがここでの目標です。
系統的脱感作法が十分に進むと、生活範囲が以前と同様にまで戻ってきます。ここで、徐々にSSRIの減薬を行っていきます。系統的脱感作法は継続し、薬の効果が減る分をカバーして、減薬しても行動範囲を狭めない状態を維持することを目標にします。それができたら、さらに減薬することを反復し、最終的には薬がない状態に持っていきます。その後は、体調管理や緊張の緩和などを自ら行って、再燃予防の維持を行っていきます。
パニック症は、薬物療法と行動療法を組み合わせると、かなりの治療効果が期待できます。一方で、治療せず回避で対応すると、発作自体は回避できても、長期間、広範囲に生活の支障が続いてしまうことがあります。そのため、もしパニック発作や予期不安が出てきたら、早い段階での受診をお勧めします。