認知症

徐々に物忘れなどが進行する

徐々に物忘れが進むとともに、迷子になる等生活面の困難が出ます。人により、イライラなどの「周辺症状」を合併します。

 

早期発見し、薬で「進行を遅らせる」ことを期待します。また、周辺症状に対して、漢方薬などを用いることがあります。

 

デイサービス等の介護サービスの利用が、生活維持に重要です。必要時、診察のうえ、介護保険主治医意見書を記載します。

もくじ

   

認知症の医学的な概略

治療と、介護保険等サービスの組み合わせが重要です。

おもに高齢者に起こる、徐々に進行する脳神経の障害です。特に記憶に関係する海馬などが障害された結果「物忘れ」が起こるほか、脳全体が徐々に障害されることにより、生活面、精神面にも障害が出現します。

現状では、薬で物忘れを遅らせたり、精神症状の改善を図ることは可能ですが、徐々に進行することは変えられません。ただし、介護保険制度や国レベルでの認知症政策の結果、サポートする体制はだいぶ整ってきました。症状への治療と社会福祉サービスの適切な利用を組み合わせることで、同じこの病気でも、生きる方向性が、だいぶ異なってくるでしょう。

認知症の原因

「アミロイド」説が有力ですが、完全には解明されていません。

様々な仮説がありますが、今のところは、まだ解明されていません。脳の物質の影響が言われ、それに対応して「症状の進行を遅らせる薬」が開発されました。近年では脳に付着する「アミロイドタンパク」が原因との説があり、それに対応した薬が開発されていますが、現状では副作用や効果に問題があり、実用化には至っていません。

認知症の症状

もの忘れ等の中核症状と、不穏等の周辺症状があります。

徐々に脳が障害されることによって、次のような症状が出てきます。

(1) 脳のダメージによる直接の症状(中核症状)

脳のダメージそのものによる症状です。今のところ、薬で進行を遅らせることまでは可能とされますが、進行そのものを避けるのは困難です。具体的には、以下のような症状があります。

1、物忘れ(記憶障害)
比較的初期から出現します。はじめは「新しいことを覚えられない」ことから始まっていき、次第に「覚えていたことを忘れる」状態になります。一般的に、最近覚えたことから忘れ、昔からの習慣などは、進行しても覚えている場合があります。
2、時間、場所の認識の障害(見当識障害)
比較的初期から出現します。初めは、日時や季節など、時間に関する認識の障害が出ます。進行すると、場所や人間関係への認識に障害が出てきます。
3、考え、感じ、実行する力の低下(認知機能障害)
認知症は、進行すると、記憶を司る海馬だけでなく、脳全体の細胞が徐々に障害されます。その結果、物事を考えたり、日常の動作を実行したり、相手に自然に反応したりといった認知機能の障害が徐々に進行します。(1,2と比べると、比較的進行してから目立ってきます)

(2) 心理的負担等に伴う症状(周辺症状)

認知症が徐々に進行するに伴って、「物事を忘れたり、できなくなる恐怖感や不安」「周りの人とうまくいかないストレス」が本人の中でたまってきます。そうしたストレスの結果「落ち込む、ふさぎ込む」といった症状が初期によく現れます。(これは、心因性のうつ状態(適応障害)と似た状態です)

進行すると、ストレスは次第に強まっていき、さらに脳のダメージによってストレスへのもろさ(対処能力は弱まり、また反応が強く・独特なものになる)が強まった結果、「ふさぎ込む」ところを通り越して、様々な精神症状として出現することになります。これが周辺症状です。人により、以下のような様々な症状が出現します。

① 焦燥感(焦って落ち着かない)
不安が一定の限界を超えると、どうにも落ち着かない状態になります。落ち着くために同じ質問を繰り返したり、混乱した結果徘徊したり、興奮状態になる場合もあります。
② 興奮・怒りやすい
不安やストレスの反応として、興奮状態になる場合があります。様々な要因でのやり場のない怒りが、脳のダメージで抑えにくくなっていることも相まって、特に家族、介護者に対して興奮、大声、暴力、介護拒否といった形で現れることがあります。
③ もの盗られ妄想
物忘れ、見当識障害があると、「あったはずのものがない」ということが起こります。これは本人に大きな心理的苦痛をもたらします。苦痛が強い場合、「あの人がとったに違いない」との「盗まれた」理由づけが生じ、修正するのが難しくなります。妄想に支配されると、興奮や暴力に至る場合もあります。本人としては精一杯の自己防衛なのですが、関係者にも強い心理的苦痛をもたらす症状です。
④ 徘徊
場所の見当識障害が強まった結果、徘徊に至る場合があります。不安や焦燥があると、徘徊の頻度が増えたり、遠出して迷ってしまう危険性が増えることがあります。本人は本人なりの自己対処をしているともいえるのですが、時に行方不明になったり事故に巻き込まれる危険もあるため、注意すべき症状です。

認知症の診断

病歴、質問の検査、画像検査の3本立てです。

病歴、質問の検査、画像検査の三本立てで行います。この三つで特徴を確認しつつ、似た症状となるほかの病気を、他の検査も含め除外して、確定診断となります。

① 病歴
どんな症状が、いつから現れ、どのように変化してきたかを聞きます。前述の症状が徐々に出現するのならば認知症を強く疑います。また、今後の生活面、福祉面のアプローチを考えるために、生活状況や日常の動作の機能など、生活にまつわる周辺的なことを総合的に聞いていきます。
② 質問の検査
記憶、場所などを質問の形で聞き、30点満点で評価する検査(長谷川式スケール、もしくはMMSE)が、時間、負荷とも少ないことからよく使用されます。これは大まかな検査なのであくまで参考にとどめますが、時間を空けてはかることで変化がわかるなど、経過を見るうえでも有用です。より詳細に状態を見るための検査もいくつかありますが、時間や負荷が強くかかるため、研究目的など、必要なときのみ検討されます。
③ 画像検査
画像では、特に海馬付近を中心とした脳の委縮などがみられます。CTでは詳細な把握が難しいため、診断確定のためにはMRIが望ましいです。ただしMRIでも典型的でない例など精度の問題が言われており、SPECT、PET、MRI精密検査(VSRAD)など、より精度の高いとされる検査が近年開発され、大学病院などで行われるようになってきました。

これらを組み合わせて、確定診断を行います。(当診療所では、画像装置はございません。そのため、画像診断を要する場合は専門機関へご紹介して診断を確定し、そのうえで、治療継続をさせていただければと思います。)

区別を要する、症状が似た病気

時に体の原因が隠れており、注意が必要です。

一見、もの忘れのような症状が出ていても、違う原因が隠れている場合があり、その鑑別には注意が必要です。代表的な似た病気(鑑別疾患)は、以下のようなものがあります。

●正常な老化
「以前より忘れっぽくなった」などから、「認知症ではないか」と心配される場合があります。確かに「忘れっぽくなる」点では似ているのですが、その性質について、以下のような違いがみられます。
  • ① 老化では「自分が心配になる」ことが多く、認知症では「周りが心配する」ことが多い
  • ② 老化ではヒントがあれば思い出す、認知症では出来事全体を忘れ、ヒントが無効
  • ③ 時間、場所が分からなくなるのは老化では出にくい(認知症特有)
  • ④ 老化と比べ、認知症では徐々に、確実に症状が進み、その範囲が広がる
●脳血管性認知症
小さな脳梗塞などが原因で起こる認知症です。CTで脳梗塞や脳出血後の所見を見て判別します。脳血管への薬が進行予防上一定の効果を持つとされます。ただし、多くの場合は、脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症が合併しており、ほぼ同様の対応が求められます。
●びまん性レビー小体病
パーキンソン病類似の疾患で、小刻み歩行や幻視(実際にないものが見える)といったパーキンソン病類似の症状に、認知症の症状が合併します。鑑別は時に困難ですが、症状の変化と、心筋シンチグラフィーなどの精密検査を総合して判別します。周辺症状を抑える薬(抗精神病薬)で副作用が非常に出やすいため、見分けることが重要です。抗精神病薬は使っても最小限にしつつ、少量のドネペジル(アリセプト)が有効なことが多くあります。
●慢性硬膜下血腫
頭を打った後などに徐々に出血し、数か月して認知症症状も含む様々な症状が出現します。(アルツハイマー型と比べると経過が急にくる)CT検査で出血を確認して診断します。放置すると致命傷になりうる一方で、血を取り除く手術によって改善するため、注意が必要です。特に、心臓病などで、血が固まりにくくなる薬(ワーファリン等)を使用している場合は注意が必要です。
●正常圧水頭症
原因は不明だが、脳の内部の空洞(脳室)が拡大して、認知症の症状のほか、歩行困難、尿失禁などが生じる。症状等から疑い、CT検査で確認して診断する。発見できれば手術で改善できるため、見分けることが大事。
●老年期うつ病
老年期はうつ病になりやすい時期でもあり、また、意欲の低下によって、一見物忘れや認知機能の低下と見分けづらい症状が出現するため、見分けることが重要。細かい観察、経過の吟味から見分けていく。

認知症の治療

進行を遅らせつつ、生活・環境を整えて周辺症状を防ぎます。

現状では「病気を治す」薬はなく、徐々に進行すること自体は避けられません。そのため、認知症といかに共存し、この病気を抱えつつもよりよく今を生きていくかがご本人、周囲の人双方にとって大事になります。そのための治療での要点は

の3つになります。以下、具体的にどのように治療・対応するか述べます。

治療①脳の障害を遅らせる(中核症状への対応)

薬と運動等のリハビリで、進行を遅らせていきます。

障害の進行自体は避けられませんが、進行の速度を遅らせるとされる対処、治療があります。

(薬物療法)
薬(抗認知症薬)によって、中核症状の進行を遅らせます。以前は塩酸ドネペジル(アリセプト)のみでしたが、現在は計4種類の薬が使用可能です。基本的には副作用に注意しつつ、継続して使用していきます。ただし、人によっては抗認知症薬によって興奮しやすくなる場合もあるため、相性を見ての調整が重要です。
(認知症リハビリ)
体と同様に、脳も頭と体を使うトレーニングを続けることで衰えを予防することができ、それは認知症でも例外ではありません。具体的には、運動をする、手作業をする、音楽を聴いたり歌ったりする等色々な方法がありますが、とにかく自分に合った方法で積極的に頭と体を使い続けることが大事です。家でも可能ですが、老人クラブに参加したりデイサービスを使うなど、一定の枠の中でしっかり活動することも有効です。逆に一人でボーっとする、役割がない状態では脳も使われず、中核症状が進行するばかりか周辺症状の悪化要因にもなるので注意が必要です。

治療②周辺症状への治療、対策

まず生活・環境を整え、周辺症状の予防・対処を図ります。

認知症を持ちつつ生活を続ける際に、最も注意を払いたいのが、この周辺症状です。強く出るとご本人、ご家族とも非常に苦しみ、時には家での生活が困難になってしまう一方で、地道に取り組むことで、その人なりの回答を見つけ、うまく乗り切れる場合・大幅に改善する場合もあるからです。では、具体的にどのような対策があるか、見ていきます。

(薬物療法)

周辺症状を「精神症状」ととらえ、薬によって対応を行う方法です。

といった具合に、症状に対応して薬を使用する場合があります。(特に興奮が強く、このままでは生活を続けられない場合などには必要です。)

ただし、前述のように周辺症状の大半は「内外の様々な出来事への心理的反応」が関係しています。薬ですべて解決するのは困難ですし、年齢や脳の状態から非常に心身両面の副作用が出やすい面があります。そのため、周辺症状への薬はできるだけ最小限にして、それ以外は、ほかの方法を組み合わせることが必要です。

(ケアの見直し)

家での生活は、「本人と介護者が、家という環境で行う、様々な交流の積み重ね」です。これがどのように積み重ねられるかによって、本人のストレスのたまり方や周辺症状の出方も変化してきます。この部分を振り返り、必要なら調整していくことが重要です。

(ポイント1:家の環境はどうか?)
本人にとって、家の環境がどうかを調べていきます。階段や障害物が多いとそれ自体がストレスになります。また、認知力低下に伴って、複雑なものは混乱して対応しにくく、また、誤解を招く(わかりにくいもの)は間違った使い方をしてしまうことがあります。そのため、本人がかかわる環境は、なるべくシンプルで、わかりやすく、その中で温かみのあるものが求められてきます。
(ポイント2:本人の望み・思いは何か?)
たとえば「急に大声で怒った」として、周囲から見ると「急に」なのですが、本人の中では何らかの理由があることが多くあります。ただしそれを自分から言葉にすることはしばしば難しく、無視されてしまいやすいものでもあります。普段から本人が「何をどうしたいのか」こちらから引き出して語ってもらうことが、本人及びご家族の精神状態にとって有効です。
(ポイント3:生活のリズムはどうか?)
昼と夜が逆転するなど生活が乱れると、特に夜間に周辺症状が目立つ形になります。睡眠はいつしているか、起きているときどんなことをして、何を食べているかといった生活の情報が非常に大事です。また、薬を飲めているか、副作用はどうかも、生活から見えてきます。もし乱れが強ければ調整を試みます。介護資源の「デイサービス」は、昼活動して夜に寝る生活リズムの確立にも有効です。
(ポイント4:ご家族のかかわり方はどうか?)
ご家族なりに良かれと思って介護や言語的なかかわりを続けるのですが、それが「本人にとってどうか」考え直してみるのも有効です。たとえば、「無理をかけたくない」との一心で先回りしていろいろやっていたが、本人としては「まだできるのに、馬鹿にされている」と感じるなど、行き違いはありうることです。また、介護や言語的かかわりについては、専門家に習って技術を身に着けるのも一つの方法です。
(ポイント5:ご家族自身の精神状態はどうか?)
長期にわたる認知症の介護は、心身両面に非常に大きな負担をかけます。一方で、つい「やって当たり前」と頑張りすぎてしまい、燃え尽きてしまう危険も大いにあります。介護で大事なことは「継続すること」そのためにも、ご家族自身も精神状態を保つこと、そのために時には休むことも大事です。デイサービスの間に少し休むことや、家族会などで話せる場を作ることも有効です。

治療③福祉・介護サポートの活用

本人・家族双方のため、介護サービスの活用を図ります。

長期にわたりケアを続けることは非常に大きな負担です。そのため、自分だけで抱え込まぬよう、国や地域のレベルで、様々なサポート資源が作られ、利用できるようになっています。ただし基本的には「申し込まないと利用できない」ため、どんなサービスがあり、どのような特徴があるかを知ることが重要です。知ったうえで、必要なサービスをうまく組み合わせて使っていくことが、長いケア生活をよりよく過ごすための鍵です。

(まず:すべての土台は介護保険)

福祉・介護には多様なサービスの形がありますが、その大多数が「介護保険制度」の中のサービスになります。審査にもよりますが、ご家族のみでサポートが困難になっている場合は「要支援」か「要介護」の判定が出てサービス開始になることが多いと思われますので、必要な場合は、次の流れで、申請を行ってください。

介護保険は、おおむね、次のような仕組みになっています。

そのため、「支給額」を、いかにその人に合った形で割り振り、利用するかが、介護保険をうまく使うコツです。下記のような様々なサービスのうち、どれをいつ、どのくらい使うかをケアマネージャーとしっかり話し合うこと大事です。(人により最良のものは大きく異なりますが、一般には、「デイサービス(またはデイケア)」を柱にして組み立てるとバランスがとりやすい印象があります。

参考:おもな介護保険サービス

介護保険では、様々なサービスが定義され、利用できます。

<基本のもの>
●居宅介護支援
ケアマネージャーによるケアプラン作成や事業者との調整など。
<来てもらうサービス>
●訪問介護(ホームヘルプサービス)
ホームヘルパーが来て、入浴・食事等の介護や生活面の援助を行う。
●訪問入浴介護
自宅を入浴車などで訪問し、浴槽を持ち込み入浴介護する
●訪問看護
看護師等が来て、療養の世話や診察の補助などをおこなう
●訪問リハビリテーション
理学(作業)療法士が来て、身体・生活機能維持のためのリハビリを行う。
●居宅療養管理指導
医師、歯科医師、薬剤師等が来て、診察や療養の指導を行う。
<日中通うサービス>
●通所介護(デイサービス)
日中通って、ケアを受けつつ活動も行うサービス。入浴も行う場合がある。
●通所リハビリテーション(デイケア)
日中通って、おもにリハビリを行うサービス。
<短期間(数日)入所するサービス>
●短期入所生活介護(ショートステイ)
特別養護老人ホームなどの施設に短期間入所するサービス。
●短期入所療養介護
介護老人保健施設などに短期間入所するサービス
<福祉用具や住宅のサービス>
●福祉用具貸与
車いすなどの必要な福祉用具を借りられるサービス
●特定福祉用具販売
入浴用のいすなど、一部の福祉用具の費用が支給されるサービス
●居宅介護住宅改修費
転倒予防での手すり取り付け等、必要な小規模の家の改修費用が支給される
<施設に入所するサービス>
●特別養護老人ホーム
●介護老人保健施設
●指定介護療養型医療施設
●認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)
病状の種類、重症度に応じて、上記のような施設に入所して生活する。

これらのサービスをうまく組み合わせて介護の土台を作ったうえで、状態の変化に応じて医療・介護・福祉の面から対応していきます。病状の進行に伴って、デイサービス→訪問・ショートステイ→施設入所と、必要なサービスが変わってくることが見られるため、地域でのケア会議なども行い、状態に応じて、サポートを調整していきます。