不眠症

眠れず、本来の休養がとれない

不眠症は続くと、他のこころやからだの不調の引き金にもなり、対策が必要です。

 

睡眠薬は有効ですが、依存などに注意が必要。近年は、依存がない睡眠薬も選択肢になります。

 

生活面・睡眠環境の調整など、薬以外のアプローチの並行が大事です。

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もくじ

 

はじめに

不眠には、日々の生活での対策も重要です。

 「眠れない」との悩みは、日々の診察でもよく耳にする悩みです。精神科の現場では、とかく「眠れない→薬を増やす」との対応になりがちですが、実際は、薬以外にも、生活の様々な工夫から、眠れる方向に持っていくことができます。(逆に、生活面が乱れた状態で薬だけ増やすと、日中の眠気など、副作用が目立つ結果になります)また、生活面は、ご家族と本人で主体的に取り組める部分でもあるかと思います。

不眠症(睡眠障害)の分類・原因など

ご自身の不眠のタイプを観察するのが、対策に重要です。

一言で「眠れない」と言っても、人によりいくつかのタイプがあり、対策が異なってきます。ここでは代表的な分類の方法を取り上げます。

<睡眠日記から、自分の眠れないタイプを知る>

自分がどのタイプかを知る方法として「睡眠日記」があります。これは、数日間実際寝た時間を塗りつぶして、グラフで睡眠具合を確認する方法です。図にして客観的に見ることで、より客観的に不眠の重さとタイプがわかります。

(より詳しく調べるときは、ベッドにいる時間、寝付くまでの時間、途中起きた回数、その後の日中の調子(眠さ、だるさ、気分、活動量)なども合わせて書きます)

<不眠の原因、他のこころの病との関係>

不眠の原因は人により様々ですが、多くの場合は「ストレス」「睡眠環境の悪さ」「生活リズムの乱れ」の3つが影響しあいます。また、うつ病や不安障害、統合失調症など、多くのこころの病に、不眠が合併してきます。(逆に、不眠が原因となって、これらのこころの病が悪化することも見られます)

そのため、不眠の治療に当たっては、まずは不眠のタイプを見分けたうえで、ほかのこころの病はあるか、あったとしたらどのように関連しているかをみていきます。

不眠症(睡眠障害)の治療

くすりの治療、生活の治療の2本柱で治療します。

まず、原因となるこころの病が考えられるときには、その治療を優先しつつ、必要時に不眠の治療も並行します。(実際、原因のこころの病が改善すると不眠が改善することも多い)逆に、不眠がほかのこころの病を急激に悪化させている場合は、不眠の治療を十分にすることが、こころの病の改善にもつながります。

ほかのこころの病がない、もしくは一定の改善を見た場合には、不眠症そのものへの治療を行っていきます。治療としては「薬物療法」と「生活の治療」の2つに分かれます。

<「薬の治療」と「生活の治療」の関係>

とかく不眠の治療といえば「睡眠薬」と思いがちですが、本来睡眠は人の生活のリズムの中で自然に生じるので、まずは生活面の調整・改善が先に来て、あくまで睡眠薬は「睡眠を補助する」役割にすぎないことを、確認しておきます。一方で、こころの病で不眠が続くと病状の悪化につながるため、いたずらに(必ずしも即効性のない)生活習慣改善ばかりにこだわってしまうのもよくありません。(必要なときはしっかり睡眠薬を使うことが有効です)

まとめると、

となります。生活改善と、必要時の睡眠薬を組み合わせることが有効です。それでは、生活の治療と薬の治療の具体的な内容を見ていきます。

生活を整える治療(非薬物療法)

生活習慣、行動パターン、考え方の3つを整えていきます。

生活や行動、考え方を「睡眠によい」方向に持っていくことが、不眠改善の基本になります。不眠につながる代表的な原因をあげると、次のようになります。

このうち、どれが強いかは人により違いますが、対策は次のようになります。

この3つの対策について、具体的に見ていきます。

(対策1)睡眠によい生活の方針を知り、実践する(睡眠衛生教育)

具体的な方針を、次に書いていきます。

一気に完全を目指すより、まずはできるところから始めることが大事です。そして、少しずつでも、継続することが大事です。

(対策2)睡眠によい行動パターンを知り、実践する(行動療法)

良かれと思っていても、次のように実際には睡眠の妨げになる行動パターンがあります。

<×1>早く寝ようと、必要以上に早く寝室に行く
眠くなる前に寝室に行っても眠れることは多くありません。そして、すぐ寝られないためにかえって焦りが生じ、不眠になることがあります。眠気が出てから、寝室に行くことにします。
<×2>寝られなくても、ずっと寝室で寝ようと頑張る
寝られない時に、ずっと寝室で寝ようとすると、かえって考えごとに飲まれ、不眠の悪循環になります。その場合はいったん場所をかえ、リラックスして寝る準備ができてから、再度寝室に行きます。
<×3>睡眠不足と思ったら、起きる時間を遅くする
そうすると、結果的にどんどん生活リズムが後ろにずれていき、不眠が慢性化します。眠くてもしっかり起きて日光を浴びると、そこで「起きる」リズムになり、日中起きて夜に「早寝早起き」を実行することで、リズムを立て直すチャンスになります。
<×4>疲れたら、とりあえず寝室に行ってゆっくりする
安定した睡眠の確保には「寝室→寝る場所」の条件付けが非常に重要ですが、ほかの時間に寝室に入ると、その条件付けが弱まってしまいます。また、特に夕方に寝室に入って長めの「昼寝」をしてしまうと、不眠、睡眠リズムの乱れの原因となってしまいます。そのため、原則、寝るとき以外は寝室に入らないことが大事です。

望ましい行動パターンをまとめると、次のようになります。

(対策3)睡眠に悪い考えのくせを知り、必要なら修正する(認知療法)

「眠れない」ことはしばしば苦痛を伴い、その結果それは大きな「悩み事」になります。悩むことで解決すればいいのですが、実際には次のような形で、かえって悪循環となって不眠を悪化させてしまいます。

(1)考えすぎて不安が強まる
考える→不安が強まる→さらに考える、といった悪循環になることがしばしばあります。
(2)無理に「そらし行動」をしてかえって目が覚める
眠れない不安をごまかそうといろいろ行動した結果、かえって眠れないことがさらに気になって眠れなくなります。
(3)「眠れてない」との考えにこだわってしまう
その結果、起床が遅くなって不眠が慢性化したり、繰り返し睡眠薬の増量を要求して結果日中の生活が悪化するなどします。

 対策としては「(不安を引き起こす)考えにとらわれない」ことになります。「別の考え方を探す」方法などが使われる場合があります。

不眠症(睡眠障害)への薬物療法

睡眠薬は、依存性などの副作用を必要性が上回るときに慎重に使用します。

治療のもう一方の柱は、薬(薬物療法)です。生活面の改善で効果を上げるには1-数週間の時間がかかりますが、多くの場合こちらには即効性があります。なので、以下のような場合には薬の治療が有効です。

①主な睡眠薬の種類

(1)ベンゾジアゼピン(BZ)系睡眠薬
現在では最もよく使われる睡眠薬です。様々な種類がありますが、主には効果時間によって分類し、不眠の種類によって使い分けます。
  • ●超短期間型(ゾルピデム、ゾピクロンなど)⇒睡眠導入の薬。入眠困難に有効
  • ●短期間型(ブロチゾラムなど)⇒主に入眠困難に使うが、途中覚醒もやや減らす
  • ●中間型(フルニトラゼパムなど)⇒導入、維持の両方に有効。主に途中覚醒へ。
  • ●長時間型(クアゼパムなど)⇒途中覚醒に対し有効だが、日中残り、使用頻度は少ない
(2)睡眠リズム改善薬(ラメルテオン)
依存性のない新薬です。1日のリズムを整える「メラトニン」と類似(その受容体に作用する)の薬で、リズムの調整から、間接的に不眠を改善する薬です。即効性の弱さや、効果の個人差は目立つものの、睡眠薬一般にある副作用がほとんど見られないのが特色です。
(3)オレキシン受容体阻害薬(スボレキサント)
同じく依存性のない新薬です。特に中途覚醒に対しては有効性が高いとされ、ラメルテオンと比べても効果が強いことが多い印象があります。いっぽうで、入眠困難への効果は限定的な事が多いこと、および持続時間に個人差が大きく、朝に眠気が残ることも多いことが弱点です。
(4)抗精神病薬
元来統合失調症に使う薬の中で、眠気が強いものを、補助的にに使うことがあります。(BZ系睡眠薬が無効の時などに検討されます)。
(5)抗うつ薬
抗うつ薬の中で眠気が強いものを眠剤代わりに使うことがあります。BZ系が無効、もしくは大量になってしまう場合などに使用が検討されます。

②睡眠薬の主な副作用

必要な時に少量を使うだけでは副作用は出にくいですが、長期間、特に大量になってくると、副作用の心配が出てきます。次のようなものがあります。

(1)日中の眠気・ふらつき
中間型、長期型、抗精神病薬で起こることがあります。「日中まで薬が残っている」状態です。可能なら減薬か、作用の短い薬への変更を検討します。
(2)ふらつき、転倒
主に高齢者で出現することがあります。特に夜トイレで起きるときは、手すりを使うなどした方がいい場合があります。
(3)健忘状態
アルコールと併用したり、服用後無理に起きていた場合に、特に薬の量が多い時起こります。(知らないうちに多くのお菓子を食べていた、など)BZ系薬(特に作用が短いもの)とアルコールの併用は大変危険です。また、薬を服用したら、あとは寝ることに専念しましょう。
(4)常用量依存
BZ系薬は、依存性は比較的少ないのですが、「中止すると寝れなくなる」ような状態、つまり「常用量」が常に必要になる、「常容量依存」という状態が起こることがあります。急にやめると強い不眠となることが多いので、生活習慣も整えつつ徐々に薬を減らしていくことで、この副作用を乗り切れることがあります。

③薬を減らす(減薬)のポイント

睡眠薬は、必要なときは必要ですが、一方で、量が増えすぎたり、その後依存的になり減薬が難しくなる例もあります。その場合、次のポイントを生かしていくと、少し減薬が実現しやすくなるでしょう。

(ポイント1:時間をかけて徐々に減薬する)
特に外来の枠組みでは、時間は長くかけられる一方で、減薬での変化への対応は困難な場合があります。この特徴も踏まえ、外来で減量をする場合には、1か月に1/4減らすなど、非常にゆっくり行うと、うまくいきやすくなります。(一方入院では、逆の特性があるので、観察の上、比較的急に減薬を行う場合があります)
(ポイント2:主治医との二人三脚で行う)
減薬をやりきるには、心身への負担はかかることがあります。いわゆる「離脱症状」(不眠・イライラ等)が出ることもあります。その時に、主治医からの説明や信頼関係があると、少々の離脱症状でぶれることなく、着実に減薬が行いやすくなります。
(ポイント3:多少の副作用・離脱症状は覚悟する)
減薬の途中で、離脱症状が起こりえます。ただし、多くの離脱症状は、減らした状態に慣れてくれば(減薬後1-4週すれば)おさまってきます。この期間を持ちこたえられるかが、減薬成功のカギになります。なので、予め多少の離脱症状は覚悟しておき、いざそれが出ても、動揺せずできる範囲で挑戦を続けていくのがいいでしょう。
(ポイント4:生活習慣の見直しを並行して行う)
生活面の改善が見られると、結果として薬の必要量が減少することがあります。そのため、薬の減薬と生活習慣の改善がうまく連動すると、スムーズに、十分な減薬ができる場合があります。
(ポイント5:こころの病気の悪化があれば、減量を取りやめる)
ポイント3と一見矛盾しますが、重度の離脱症状(生活に明らかな支障をきたし続ける、病状が悪化するなど)が見られた場合は、減量を取りやめる必要があります。「持ちこたえるべき離脱症状」か「取りやめるべき離脱症状」か、判断が難しい時は、主治医と相談するといいでしょう。ポイント2の繰り返しになりますが、こうした場合も、主治医との信頼関係があると、うまく判断して乗り越えやすくなります。

補足:統合失調症に伴う不眠の特徴と対策

統合失調症の方の不眠の対策は再燃予防にとっても重要です。

統合失調症の方の不眠では、次のように、一部特有の注意点、特徴があります。

(特徴1:不眠と精神状態の悪化が連動しやすい)
特に急に不眠が悪化した場合は、しばしば精神状態の悪化を伴います。この場合は、すぐに不眠の対応をすることが病状悪化の予防にも必要なので、まず薬物調整で対応することになります。睡眠薬を調整する場合もありますが、元の精神状態の安定を目標に、抗精神病薬を調整することもあります。
(特徴2:無理な減薬が精神状態の悪化につながりやすい)
特徴1は、減薬の時でも同様に言えます。もとの精神疾患がない場合と比べると、離脱症状が出た時に、そこから精神症状が崩れることがあるので、より慎重に対応することが必要になります。減量のペースをよりゆっくりにしたり、精神状態の変化が見られたらすぐ減量を中止するなどが必要になりえます。また、行動療法的な介入も、あまり負担の大きいものは病状悪化の原因となりうるので、やや慎重に検討します。
(特徴3:抗精神病薬を有効利用できる)
統合失調症の場合は、その治療で抗精神病薬を使います。そのため、不眠を合併した場合は、睡眠薬を調整する以外に、(眠気の出る)抗精神病薬を(飲み方も含め)調整することが有効な場合があります。
(特徴4:睡眠薬が有効でない場合がある)
特に陽性症状が目立つときは、一般的な睡眠薬が非常に効きにくくなっており、睡眠薬だけの対応だと大量処方につながることがあります。この場合は病状を改善するための抗精神病薬の調整をした方が、結果的に睡眠も改善することがあります。
(特徴5:陰性症状などによるリズムの乱れが不眠の原因になる)
慢性的な不眠を訴える場合、日中寝ているなどの生活の乱れが、影響している場合が少なからずあります。その場合、「日中外に出る」などのシンプルな工夫から不眠・リズムの乱れが改善することがあります。陰性症状の対策としての行動活性化・交流・デイケア等の参加が、不眠・リズムの乱れに対しても有効になります。