HSPと心療内科

院長ブログ 2020/11/7投稿

精神医学からみた「HSP」と、心療内科でできること、治療法など記しています。

もくじ

 

はじめに

「私、HSPですか?」の質問が増えています。

ここ最近、新たに受診される方に加え、これまで受診されている方からも、「私はHSPでしょうか?」とのご質問を受けることが増えています。

精神科医の視点では、なかなか回答に困る面もあるのですが(理由は後述)、ここまで普及している言葉でもあり、いったん、定義(心理学的)や、精神科の診断との違いや一致点、および実際「HSPでは?」と思った場合、心療内科(当院)ではどのような方針で対応・治療を行い、患者様側としてどう対処し、どのような時に受診を考えるか、その全体像をここにまとめようと思います。

定義:HSPは「精神医学の病名」ではない

HSPは「精神医学」とは違う「心理学者による定義」です。

先ほどの「回答に困る」最大の理由は、HSPが「精神医学での定義ではない」ことです。詳細は後で述べますが、HSPは、心理学者(アーロン博士)により定義された、「生まれつき非常に繊細な人」のことです。一方、私たち精神科医は、精神医学領域での診断基準(従来型診断基準もしくはDSM-5など)により診断し、治療を行います。その根本的な基準(診断の根拠)の違いがあるため、心療内科・精神科の場面で「HSP」ですか?と聞かれたときに、一種の困惑と答えにくさが生まれることがあります。

一方で、HSPと、従来型診断基準(精神科)での「神経症」とは非常に類似点が多いとされ、発達障害などほかの「精神科での病名」と類似点がある場合もあります。このように、直接「HSP」かは答えにくくても、「HSP」の特徴を自覚された方を診察することを通じて、「精神医学的には、いわゆる神経症の中に入ると思われます」など、心療内科・精神科の立場から診断し、治療の方向を提案することは不可能ではないと考えます。

具体的な話の前に、この「「同じ状態」でも「基準」によって別の名前がつくこと」につき、少し触れます。

診断基準の違い(同じ症状も診断基準で名前が変わる)

同じ人でも、「HSP」と「不安神経症」の両方を満たしえます。

「診断基準による診断」の場合、その人の症状が「診断基準を満たせば」診断になります。基本的には、一つの診断基準の枠組みでは、1つの病名になるように作られていますが、別の診断基準の枠組みを使い、そこで「診断基準を満たせば」その診断も同時につくことになります。そのため、違う診断基準を根拠にした複数の病名等がつくことは、大いにあり得ることです。

たとえば、「子供のころから敏感で、不安を感じやすい」人の場合、HSPの基準で「HSP」と判断され、それと同時に、精神医学の基準で、「不安障害(DSM5)」もしくは「不安神経症(従来診断)」と診断されることは、大いにあり得るわけです。

私たちは精神医学の専門家であり、HSPの権威ではないので、HSPか厳密な判断をすることは難しいことがあります。一方、HSPではないか悩まれている方に対して、精神医学の観点から診察、診断を行い、治療の方向性を提案することが可能と思われますし、そうした形で悩まれている方の助けになれればと考えます。

HSPは精神医学の定義ではない

同じ状態で別の名前がつくことがある

HSPの定義について

生まれながらの「とても敏感・繊細」な人です。

ここで、心理学的なHSPの定義について、まとめます。

HSPとは、Highly Sensitive Personの頭文字をとった略称で、その通り「(生まれながら)とても繊細な人」との意味になります。様々なことに敏感のため、人によっては疲れやすく、生きづらさが目立つようになったり、ストレスがたまりやすく、二次的にうつ病などになる方もいます。およそ5人に1人ほどが、その特性を持っているとされます。心理学者のアーロン博士によって提唱された概念であり、精神医学の基準、概念とは異なります。

具体的な特性(症状)として、次の4つが言われています。(英語では、頭文字をとってDOESと略されます)

①処理の深さ(深く考える:Depth of prosessing)

ものごとを深く考えていく傾向です。深く考えることで、物事の本質を見抜くなどには有利な一方で、考えなくてもいいことまで「しっかり考えてしまう」ことで、疲れやストレスが溜まってしまうことがあり、考えすぎることで行動に移しにくい場合もあります。

②刺激の受けやすさ(Overstimulated)

相手の言葉やしぐさなど、様々な刺激に対して敏感に感じ取ります。感性豊かに生きていくことが得意になりますが、一方で、様々な刺激に影響を受けやすくなり、ストレスを感じやすく疲れやすいという弱点にもなります。

③感情的反応性・高度な共感性(感情的共感力の強さ:Emotional reactivity and high Empathy)

相手に対して、強く共感できる傾向です。無意識に相手に共感することができ、現代のコミュニケーションには大きな武器になります。しかし一方で、相手に影響を強く受けてしまうため、特に相手に悪意があった場合など、振り回されて消耗してしまうリスクと表裏一体です。

④些細な刺激に対する感受性(刺激に敏感:Sensitibity to Subtleties)

音やにおいなど、日常のささやかな刺激に敏感で、気になりやすい傾向です。日常をしっかり味わいつつ生きていけるという長所がある一方で、集中すべき時に気が散ってしまったり、刺激への反応の連続で疲弊してしまいやすい弱点があります。

総じて、周りに対して常にアンテナを張っていて、気が休まりにくい状態と言えます。外から見て「気が利く」など適応した状態になりやすいですが、一方で気が休まらず、疲労やストレスが溜まってしまい、二次的な精神不調のリスクがある状態とも言え、生きづらさを実感する人も少なくありません。

「神経症」の定義とHSP

きわめてHSPと類似した精神医学用語です。

「神経症」とは、従来型診断基準で用いられてきた精神医学用語です。定義は細かくはさまざまありますが、まとめると、「元来神経質で不安を感じやすい人にストレスがかかり、不安等の強さが生活に強く影響した状態」になります。(有名な「森田療法」は、自身が神経症の状態になった森田正馬医師が、その特性をやわらげ「生きやすく」なるために開発した治療論です)

そのため、「HSPではないか」と思い、生活で困難を感じている人は、ほぼ「神経症」の定義にも当てはまります。(詳しくは違いがあるとの専門的意見もありますが、私たちとしては、共通点の多さを重視、実際の治療につなげる「臨床家」の視点を取ります。なお、この「神経症」とDSM-5の「不安障害」は似ているのですが、「不安障害」では、半年以上不安が続けば基準を満たし、HSP的な「幼少期からの敏感さ」の視点が抜けるため、ここでは「神経症」もしくは「不安神経症」の用語を主に使います)

そのため、HSPでは?と思い悩まれる方の多くは、精神医学的には「(不安)神経症」もしくは「不安障害」に言い換えることができると思われます。

「発達障害の過敏性」とHSP

「過敏さ」は共通、ただしほかの点で違いがあります。

発達障害で起こる「過敏さ」とHSPの「敏感さ」の共通点が指摘されることがあります。具体的には、ASDとADHD双方で見られる「感覚過敏」とHSPの「刺激への感受性」、およびADHDでの「衝動性(刺激に敏感に反応)」とHSPでの「刺激の受けやすさ」、ASDでの「こだわり」とHSPの「処理の深さ」などに共通点がみられます。こうした理由で、実際は発達障害のかたが、「HSPではないか」と相談される場合があります。

ただし、逆な面もあります。ADHDでは「衝動的・積極的に動く」のに対しHSPでは「慎重すぎる」こと、ASDでは「周りに気を使わなすぎる」一方でHSPでは「周りに気を使いすぎる」といった点です。こうした点を診察で見極めることになります。簡単に見極められることも多いですが、例えばASDだが「対処として周りの求めることを理論的に考える」ことをした人だと、HSPの「気を使いすぎる」と似た状態に見えることもあり、心理検査など客観的な方法が必要になる事もあります。

「HSPでは?」で考えられる精神疾患

多くは「不安神経症」。ただしほかの原因のことも。

敏感さや疲れやすさなどで「HSPでは?」と思われる方は、精神科的には、どのような病名になるでしょうか?前述のように、多くは「不安神経症(不安障害)」ですが、その他の可能性もあります。

①不安神経症(不安障害)

前述のように、多くの方がここに該当すると思われます。

②自閉症スペクトラム障害(ASD)

感覚の過敏さなどが目立ちますが、実際には対人面のやりにくさ・無関心(社会性の障害)が目立つことなどで見分けていきます。

③注意欠陥多動性障害(ADHD)

刺激への敏感さ、感覚過敏などが目立ちますが、「積極的に活動する傾向」「忘れ物などの不注意が目立つこと」などで見分けていきます。

④うつ病、うつ状態

不安・過敏性が目立つうつ状態の方がおり、そこからHSPでは?と思われる場合があります。子供のころは違ったこと、うつ症状が目立つなどで見分けます。ただし、HSPを背景に、疲労・ストレス等から二次的にうつ状態(うつ病・適応障害)になる場合もあり、その点も診断で見ていくことになります。

⑤身体的な原因(甲状腺など)

甲状腺の不調など、体の原因が「敏感さ」をもたらしていることがあります。必要時甲状腺機能などをチェックすることで除外します。

HSP状態に心療内科・精神科でできること

精神医学的にはどうか診断し、治療します。

HSPの治療を見ると、はっきりとは示されておらず、「特性なので仕方ない」などの話も出てきます。また、実は「発達障害」だった場合などは、対処の方向を間違える事にもなります。

メンタルクリニックでできることは、心理学的な「HSP」を、精神医学の視点に翻訳して診断を行い、その診断に対しての治療の方向性を示すことです。精神医学的な診断が明確になれば、それに対して方向性を示すことができます。方向性が明確になれば、医師の治療以外に、ご自身でも様々な取り組みを行いやすくなるでしょう。

受診時の診断と治療の3段階

診察→診断→治療の3段階です。

実際に、「HSPではないか」と、つらさあり受診された場合には、次の3段階で診断、治療を行います。

Step1:診察

「HSPではないか?」と思った過敏さなどについてお話を伺いつつ、必要なら子供のころの特徴や、落ち込みなどの他の症状の有無などをお聞きし、面接でのご様子も参考にして、診断につなげます。発達障害が疑われるとき、その判別が難しい場合などに、心理検査などを行う場合もあります。

Step2:診断

診察や、必要時の心理検査の結果を総合し、診断を行います。

Step3:方向性の提案と治療

診断名や状態などを踏まえて、治療の方向性を提案していきます。場合によっては薬を提案する場合や、サポート機関を紹介する場合もあります。大まかな、診断別の対応法は、以下のようになります。

①不安神経症(不安障害)

ストレスの対処法や、リラックス法など、緊張と疲労をやわらげる対策を提案することが主になります。また、漢方薬やタンドスピロンなど、緊張を和らげる薬を処方することがあります。その中で「社会不安障害」「パニック障害」などの診断がある場合は、抗うつ薬などの治療薬を用いることがあります。

②自閉症スペクトラム障害(ASD)

診断のうえ、特性の長所を生かし、短所をカバーする方向を提案します。二次的にうつ症状などあれば、その治療薬を使うことがあります。特性での「生きづらさ」が強い場合など、サポートする制度や施設を紹介する場合があります。

③注意欠陥多動性障害(ADHD)

診断のうえ、特性を和らげるくすりに関し、提案することがあります。そのうえで特性の長所を生かし、短所をカバーする方向を提案します。二次的にうつ症状などあれば、その治療薬を使うことがあります。特性での「生きづらさ」が強い場合など、サポートする制度や施設を紹介する場合があります。

④うつ病、うつ状態

うつ状態に対しての治療(抗うつ薬、環境調整、休職など)を行っていきます。

⑤身体的な原因(甲状腺など)

その体の原因に対しての治療につなげます。(内科等に紹介)

HSPでは?と思ってから対策まで

各診断に対応した治療の方向

HSP疑いに対し当院ではできないこと

HSPの診断確定は当院ではできません。

ここまで、当院などでできることを述べましたが、逆に、以下のことは行えません。ご理解の程お願いいたします。

①「HSP」の確定診断

当院はHSPの権威ではないため、精神医学の定義ではない「HSP」への確定診断は行えません。代わりに、その状態が、精神医学上はどのようなものと思われるか、診断と治療の方向の提案を行ってまいります。

②医師による長時間のカウンセリング

医師の診察はあくまで「診察」であり、細部についての詳細な話し合いや、悩みを吐き出すための医師による長時間のカウンセリングなどは行えません。(再診は5-10分となります)その場合は、カウンセリング施設等でのカウンセリングの活用をご検討ください。

受診の前にできる対策

緊張・考えすぎ等を減らし、精神不調を防ぎます。

HSPの定義に合致する方は全人口の15-20%と言われますが、その全員が受診が必要なわけではありません。できれば受診が必要になる前に、対策を続けて不調を予防できるに越したことはありません。

HSPの状態がある場合、「緊張が続く」「人に巻き込まれる」「刺激にさらされ続ける」ことから、脳に負荷(ストレス・疲労)がかかりすぎ、精神的な不調になることが問題点です。その逆をすることが対策になります。その視点から、以下に対策を示します。

①考えすぎない練習

考えることは問題解決などには有効ですが、やりすぎると消耗してしまいます。そしてHSP的な方は「考えすぎる」ことからの消耗に陥りがちです。

その対策としては「考えすぎない練習」を日ごろから行うことがあろうかと思います。無意識に「考えそうになる」ことは止めにくいですが、例えば「別のことに集中する」ことなどを通じ、考えすぎを防ぐことは、行える余地があるように思われます。

②刺激を減らす(環境調整)

敏感で、刺激を受けやすいということは、少ない刺激でも色々感じとれるのは長所ですが、ともすると刺激が(他の人には普通でも)過剰になって、消耗してしまいやすいことが弱点です。

対策として、「なるべく刺激を減らす」ことが有効と思われます。あまり人が多いところに行かない、部屋にものを置きすぎないなどが、具体的な方法になるでしょう。

③対人距離の確保の練習

他者に共感できることは、特に現代においては大きな武器にもなりますが、無意識に相手と距離が近くなって影響を強く受けすぎ、消耗してしまう弱点と表裏一体です。

対策としては状態を見て、うまく対人距離を調整することになります。その一歩としては、「意識的に相手と距離を取る」ことの練習になると思われます。まず距離を取る技術を身に着けたうえで、体調面と必要性に応じ、距離を調節できると理想的です。

④リラックスと休養

HSP的な場合、特に外では緊張がある状態とも言えます。機敏に外に対応できる一方、疲労・消耗しやすい状態とも言えます。対策としては日ごろから意識的にリラックスを図ること、および休めるときに休養して、疲労の蓄積を少しでも防ぐことがあります。まずは徹底的にリラックスする方法を身に着け、そのうえでTPOと体調面に応じ、緊張度を調節できると理想的です。

こんなときに受診を考える

対処してもつらさが強い場合は、受診も選択肢です。

まずは、緊張や疲労などの対処を続けるのが対策ですが、それだけではつらさが強い状態が残ることもあり得ます。その場合は、受診が選択肢になると思われます。特に次のような場合は、受診を検討するといいと思われます。

①対策を続けても生きづらさが強い場合

対策を続けても対人的な緊張が強いなど、生きづらさが強い場合は、受診も選択肢になります。「不安神経症」以外の要素がないかを見るとともに、つらさを和らげる薬を使うことで、改善が見込める場合があります。

②社会生活・対人面がやりにくい

ご自身でHSPと思った場合の中に、実は発達障害からの感覚過敏がある場合があります。過敏さのほかに、忘れ物が多かったり(不注意)、対人面のやりにくさ(社会性の障害)があったりする場合は、発達障害の可能性があり、診断後、受けられるサポートや治療がある場合があります。

③最近、落ち込みや不安が強まった

敏感さが(昔からでなく)最近強まった場合、落ち込みや不安が一緒に強まった場合は、HSPではなく、うつ病・適応障害の可能性があります。また、元から敏感なかたが最近落ち込みなどあった場合は、二次的にうつ状態が合併した可能性があります。双方とも治療の余地があるため、受診が選択肢になります。

④体の不調を合併している

敏感さに、その他の体の不調を合併している場合、いわゆる「自律神経失調症」の場合のほか、体の病気が隠れている場合があります。その場合は、身体面の見極めも含め、受診が望まれる状態と思われます。

まとめ

まずは自主的な対策、それでもきつい時は受診も選択肢です。

HSPは、心理学の定義であり、直接は精神科の診断とは違いますが、「不安神経症」など、精神科の診察の結果、診断がつく場合が多くあります。また、実はHSPと思ったら発達障害など、別の原因が隠れている場合もあります。そのため、まずは自主的なリラックス等の工夫をしますが、それでも生きづらさやつらい症状が消えない場合は、一度受診して診断を受け、対策の方向性を定めることも選択肢になるでしょう。