ACTと森田療法:分倍河原駅、東府中駅から1駅1分、心療内科・精神科の府中こころ診療所

心療内科・府中

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はじめに:認知行動療法にまつわる議論  

1980年代以降、出来事への反応を要素に分けて対応していく「認知行動療法」が、その効果の速さや理論のわかりやすさなどもあり、世界で大きく普及しました。一方で、普及するに従い、この治療の「弱点」ともいえるところが議論になりました。主なものとして、次のような点がありました。

1、 本当に認知(考え)を「修正する」ことが必要か?

認知再構成法(認知行動療法の技法)では、まず自分の考え方のくせを見つけ、次にそれに反論する等して、その「くせ」を修正する方法をとります。これ自体の有効性は示されたのですが、実際に「くせを見つけた」ことで改善したのか、「修正した」ことで改善したのかが議論になりました。従来は「修正する」ことこそ有効といわれましたが、実際には「くせを見つけた」段階の効果のほうが大きいのでは?との論文も出されています。もしそうだとすると、「修正する」ことよりも、その前の「くせを見つけ」て、距離をとって冷静に対応することに集中したほうがいいことになります。

2、 自分の状態に気づかないと治療が成立しない

認知行動療法の第一段階として、出来事への各要素(認知、行動、体の感覚、感情)を見ることがありましたが、ここでつまずく例が見られました。自分の「今の状態」に気づかない、という場合があり、その場合はなかなか次に進めません。これは人により得意不得意がありあすが、ただ、苦手であっても何らかの訓練で改善できないでしょうか。

3、 人生のテーマがあいまいだと、治療効果が鈍る

認知行動療法では、まず現在の具体的な問題を解決し、その繰り返しで改善を図ります。それで改善する人も多かったのですが、「人生の早い段階で問題を抱えてしまった人」や「自分の支えが何かが見えていない状況」では、なかなか思ったような改善が見られませんでした。その際は、もっと根本に切れ込む方法が必要かもしれません。

こうした議論点を踏まえ、「第3の波」といわれる、新たな流派の認知行動療法が2000年代以降数多く出現しました。その中でも、欧米において普及してきたのが、ACT(アクセプタンス・アンド・コミットメント・セラピー)です。

こころを柔軟に:アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)

(詳細を書くと膨大になるため、ここでは筆者の考える要点を述べます) この治療法では、いかに過去やこだわりにとらわれずに「こころを柔軟にする」ことを大事にします。(さまざまな心の病がありますが、それにより苦しむとき、共通する「心理的な硬さ」があり、そこを柔軟にすることで、結果的に症状の苦しみも軽減すると考えます) そのための要点は、次の二つです。

●アクセプタンス(現実を受け入れること)

現実をありのままに見られないことにより、自分を自分で追いつめてしまう場合があります。たとえば、自分のこだわりに支配されてしまう限り、外からの助言は入りません。また、現実を「回避」し続けてしまうと、本来なら次第に慣れてくることも慣れずに、恐怖心などが残ってしまいます。こうしたこだわりや回避をやめ、今の現実をありのままに見ていくことを目標とします。

●コミットメント(「支え」を見つけ、そのために行動する)

何が一番自分にとって大事か(価値、もしくは「支え」)がぼやけていると、エネルギーもわきませんし、困難なときに「回避」の方向に行きやすくなります。そのため、まずは自分にとっての「支え」が何かを再発見し、そのうえで、それを実現していくためには、どのように行動していけばいいか、考えていきます。

より詳細に分けると、次のような要素になります。

<アクセプタンス>
●ありのままを受け入れる(現実を回避しない)
●こだわりにとらわれない(脱フュージョン)
●今の状態をしっかり感じ取る(マインドフルネス)
●状況を離れた視点で、客観的に見る
<コミットメント>
●コミットメント(支えを探す)
●支えを実現するための行動(目標を定め、実行する)

認知行動療法との違い

ACTは、認知行動療法の後の「第3の波」といわれる治療法の一つですが、認知行動療法(CBT)と比べると、大きく次のような違いがあります。

1、「考えのくせ」を修正するのではなく、気づき、距離をとる

CBTでは、考えのくせがあったら、それを「合理的かどうか」考え、修正を図ります。一方、ACTでは、修正することよりも、しっかり気づいてその状況を受け入れ、もし考えにのまれていれば、それと「距離をとる」ことを重視します。

2、自分の状態に気づく練習を積極的に行う

ACTも含めた「第3の波」に共通することとして、今の自分の状態にしっかり気づく(マインドフルネス)ことを重視し、実際トレーニングもしっかり行います。これにより、気づきをしっかり持つことができ、また、CBTでは実際扱いにくかった「体の感覚」も積極的に扱うことができます。

3、 人生のテーマ(支え)について積極的に扱う

CBTでは、今現在の問題を扱うので導入しやすかったのですが、もし、自分の支えがぼやけていたり、考えのくせが昔からのことだったりすると、効果が乏しくなるきらいがありました。ACTでは、自分の一番大事なこと(価値、もしくは支え、願い)に注目し、そこを土台として実践的な目標や具体的な行動を組み立てていきます。

4、 疾患名を越えて、状態、症状との付き合い方を考える

ACTでは、もちろん症状や疾患に特化したプログラムもありますが、基本的には、疾患名に係わらず、「自分の状態、症状との付き合い方」に焦点を合わせます。そのため、幅広い疾患に対して、この治療法の要素を導入することができます。

当院での面接・治療とACT

現在のところ、治療として「ACTだけを行う」ことは当院では行っていません。ただし、「状態、症状への付き合い方」として、ACTの考えを基にして治療、アドバイスを行うことは多くあります。(各種家族教室、集団精神療法でも、この考えを大いに参考にしています)各疾患への治療(薬物療法など)を縦糸とするならば、ACT的な、変えがたい症状や状況とうまく付き合う方法を横糸として、共存して使っていくことを考えています。

ACTと森田療法

ここまでを読んで、「まるで森田療法だ」と思った方もいるかもしれません。症状全体への「受け入れる」ことを土台とした対応は、ほぼ共通したところがあり、最近の話題になっています。 森田療法は、日本の医学者である森田正馬が20世紀初旬に開発した治療法です。「森田神経質」と呼ばれる、こだわり、とらわれ、不安の強い方(現在でいう、「不安障害圏」の方とほぼ一致します)に対して行う精神療法です。「とらわれ、考えすぎ」から抜けるために、一旦何もしない状態を作り、その後行動(作業)を行う中で、「あるがまま」の状態をつかむことを目指します。原法では、これを数か月の入院治療で厳密に行っていましたが、近年は長期入院の困難さもあり、この要素を外来で行う(外来森田療法)ことが多くなってきました。そして、この治療も、ACT同様、疾患への対応を補う形で、「変えられない症状にとらわれない」ことを目標に取り入れられる場合があります。  

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