不安からの症状群

社会不安障害・強迫性障害など

不安は、対人緊張や強迫行動・確認行為など、様々なタイプの症状を引き起こします。症状の出方は人により異なってきます。

 

タイプは違っても治療の方向性は共通点が多いです。近年は抗うつ薬(SSRI)を用いることが多くなっています。

 

生活面では、不安を回避せず、受け入れつつ不安に触れ徐々に慣らしていく「系統的脱感作法」が有効とされます。

動画で見る不安障害

もくじ

   

不安症とは?概略

 

不安を中心に、人によっては強迫症状など別の形で出ます。

 不安がもとになって出る様々な症状。以前は「神経症」とまとめられていたが、DSM-Ⅳで、出てくる症状によって診断が細かく分かれるようになった。それにともない、体の症状や強迫行動など、一見不安とは結び付きにくい症状から診断し、治療を始めることができるようになりました。一方で、表面の症状にとらわれすぎ、そこに対しくすり(向精神薬)のみが多く使われ、本質的な改善につながりにくい場面も出てきているように思います。

 

ここでは、各種の「不安にまつわる病気」の共通している面をおもに扱いつつ、各疾患による違いを説明します。

各種の不安症のメカニズム

 

うつと類似の指摘あり。回避から慢性化することあり。

(脳科学的には)

脳のGABA受容体、セロトニン受容体などが関与しているといわれます。うつ病と似たメカニズムが推測されており、治療薬もほぼ同一のものを使用します。

(心理学的には)

もとの「不安」がもちろん原因なのですが、それを慢性化させてしまうこととして「回避」があるとされます。不安自体は、場面によっては誰でも生じえるものです。一般には不安に直面すると、次第に慣れていき減っていきますが、そこで(あまりに負担が強いなどの理由で)直面する代わりに回避してしまうと、慣れることなく、不安が慢性化してしまうと考えられます。

以下に述べるように、「回避」の仕方は様々あり、その結果、症状の出方は、DSM-5のように多様になります。

 

各種の不安症の症状

不安・緊張は共通、+αに違いあり。

もとにある「不安」と、それに伴う症状(動悸、発汗、過呼吸など)は共通していますが、その対処方法、回避方法によって、次のような疾患の症状になります。

① 全般性不安障害

日常の様々なことに強い不安を感じ、その場面を避ける(回避)状態です。不安に伴う各症状が強く出るほか、慢性化すると、回避によって日常の多くの場面を避けるようになり、活動範囲が減り(人によっては家から出られない)、社会生活が困難になります。

② 社会不安障害

不安が「対人関係」にのみ強く出て、対人関係を避ける状態です。対人関係でのみ不安に伴う各症状が出るほか、慢性化すると、対人関係場面を避けるようになり、社会生活が困難になります。

③ パニック障害

不安が強まった時に、動悸、発汗等の症状のほか「もう死ぬ」などの強烈な恐怖感を覚えます。(パニック発作。数分から数十分で収まることが多い)一回のパニック発作のみではまだ慢性化していませんが、進行すると、パニック発作への不安が強まり、きっかけだけでも不安が強まる(予期不安)、パニックを起こしそうな場所が怖くなり避ける(広場恐怖)を合併し、パニックを起こしそうな多くの場面、場所を避けるようになります。その結果、活動範囲が大きく制限され、社会生活が困難になります。

④ 強迫性障害

強い不安や伴う各症状が続いたとき、自分の意に反して、特定の考え(強迫観念)が浮かぶようになり、「強迫観念」への不安、恐怖が生まれます。それに対して「手を洗う」など儀式的なこと(強迫行為)を行うと、一時的に不安が減ることがあります。すると、強迫観念を「回避」するために、強迫行為を繰り返すようになってきます。重症化すると、手洗いを数時間繰り返すなど、強迫行為によって日常生活が困難になるほか、人によっては家族などにも強迫行為を強要したり、それをしないと激昂したりする(巻き込み型)こともあり、その場合は共同生活も困難になります。

⑤ 身体表現性障害

不安を抑え込む(抑圧)することで回避するときに生じます。あるところまでは抑え込めて、あたかも不安も含め症状がないかのようになりますが、一定を超えた時に、(不安症状を感じる代わりに)頭痛、胃痛などの「体の症状」の形で出現してきます。ストレスで強まる様々な体の症状があり、内科などで検査しても異常がない場合に、こうした「抑圧しきれない不安による体の症状」の可能性を考えます。

⑥ 解離性障害

ストレス、不安がその人の限界を超えた場合に、「現実を回避する」様々な症状が出現します。諸説ありますが多彩な症状があり、人によっては記憶を失う(解離性健忘)、行方不明になる(解離性遁走)なども出現するとされます。

各種の不安症の診断

症状の他、からだの原因の除外が重要です。

各種の不安障害に特徴的な症状があり、かつ身体的な原因(甲状腺の機能障害など)や統合失調症、躁うつ病、薬物による影響などほかの要因が否定されたときに診断されます。なお、DSM-5の診断では、(原因ではなく)症状から診断するため、(メカニズムの近い)うつ病と合併診断になることが多くあります。

各種の不安症の治療

薬と精神療法、どちらが効くかに個人差があります。

薬物療法と精神療法の二つがあります。うつ病の時と同様に、脳の原因が強い場合は薬物療法を優先し、心理的な原因が強い場合は精神療法を優先します。それぞれによってどちらがより有効かは異なりますが、傾向としては次のように分けられます。

各種の不安症への薬物療法

依存性の問題から、最近は抗うつ薬の使用が増えています。

第一選択としては新規の抗うつ薬(SSRI)を使用します。不安が強かったり落ち着かない場合などに、抗不安薬、抗精神病薬などを併用することもあります。ただし、特に不安障害、身体表現性障害、解離性障害では、特に心理的な要因が強い場合は効果が乏しい場合も多いため、有効性や副作用を判定の上、使用するか、種類、量を相談して検討していきます。

抗うつ薬は、効果が出るまで2-4週かかるため、その期間をいかに持ちこたえるかが、薬物療法の効果を最大化するコツです。なお、抗不安薬はすぐ効果が出て一見わかりやすいのですが、根本治療にはならず、根本治療なしに抗不安薬が増えていくと、今度は不安などを「回避」するために抗不安薬を使うようになり(依存)、むしろ長期化してしまうこともあるため、慎重に、少量の使用を心がけています。

パニック障害、強迫性障害は、脳内物質レベルでの不調の要素が大きいとされるため、薬物療法をしっかり行うことが大事です。また、強迫性障害の場合は、一般のうつ病で使うよりも多くの量が治療のために必要なことが多いとされます。

各種の不安症への精神療法

段階的に不安に慣らすこと(脱感作)が柱です。

症状が慢性化する主な原因として①不安等を回避してしまう②ストレス耐性が低く直面できない③ストレスが大きすぎるの3つが考えられます。まず、この3つのどれがおもな要因になっているかを調べ、それをふまえて

の対応を、時には組み合わせて行っていきます。

(1) 暴露法(行動療法)

これまで避けていた場面にあえて直面し、不安が強まってから自然に弱まるまでを実体験することにより不安や回避を減らしていく方法です。直接的な効果が強い一方で、本人への負担が大きいため、治療関係を作ったうえで、徐々に負荷を増やしていく方法で行う(段階的暴露法)ことが一般的です。また、ストレス対処力に問題があったり、直面する問題が大きすぎると直面困難のため、その場合はまず、(2)(3)の方法から行っていくこともあります。

(2) ストレス対処技能訓練

ストレス対処法が不器用なために、直面できる余裕がなく回避してしまう場合があります。その場合は、ストレスに対処する技術を身につけることが有効です。相性も踏まえつつ、以下のような方法を試していき、反復練習します。

(3)環境調整

不安の原因のストレスがあまりに強く、かつ減らせる場合には、環境を調整してストレスを減らすことが有効です。ただし、原因がわかっても、経済的事情などでどうしても変えられない場合もあり、その場合は、ほかの方法(対処技能訓練や薬物療法など)でカバーすることが必要です。具体的には、次のように行います。