面接で何をするか

診断・治療双方の効果をめざす

精神科の診察は、主に面接・対話の形式をもって行われます。面接には「関係性」「診断手段」「治療」の3つの側面があります。

 

診断は、面接(問診)を通じて行われます。病歴の情報のほか、反応や行動・表情などの観察も総合して行います。

 

その他「関係構築」「対話治療」の側面に関しても、保険診療の範囲ではありますが、模索を継続したく思います。

もくじ

 

はじめに

 

面接には「かかわり」「診断」「治療」の3つの要素があります。

 

心療内科、精神科で行われる治療の大半は「面接」です。形を見ると、話す→聞く→話すの繰り返し。そこには、手術や遺伝子治療などのわかりやすく「すごい」要素はなく、ともすると「精神科ではただ雑談をして、大量に薬を出すだけ」等の印象になることもあるようです。

しかし、この「面接」にこそ、様々な大切なものが詰まっていると私は考えます。非常に幅広いものを含む面接ですが、ここでは「かかわり」「診断」「治療」の3つの視点から、面接の持つ意味を探っていきます。

①かかわりとしての面接

かかわりの確立が、診断と治療継続の土台になります。

人と人がかかわる、それは社会生活の様々な場面であるのですが、それが最もシンプルな形で凝縮されているのが面接だと思います。伝え、そして、聞く。その繰り返しで、互いを知り、感じ取り、良くも悪くも関係性が作られていきます。

落ち込み、不安、イライラ…。そうしたこころの症状のもとを探ると、多くの場合、相手・社会とのかかわり方のくせに行き着きます。我慢しすぎてつらくなる、一方的に言い過ぎてトラブルになる、相手が信頼できず相手といるほど孤独を感じる…。面接はシンプルな分、続けるとかかわり方の本質が浮き上がってきます。まるでかかわり方を「鏡で見る」ようなことを面接で体験し、その在り方を見つめなおしたり、調整したりします。

特に、継続して社会、他者とのかかわりがうまくいかないこころの病気(典型的にはパーソナリティ障害、および二次障害が目立つ発達障害など)の場合は、自らのかかわり方を面接を通じて見つめなおすことが非常に重要です。これらの病では、そのおおもとに「認められていない(不認証)」感覚があるとされます。

裏切られた等の体験があり、「どうせ裏切られる」等の価値観が作られ、かかわりが歪んでいく。心で話さない、過剰に適応した様を演じる、相手を振り回す…。本当は話したくても、つらい経験に縛られ話せない。一見問題となる行動の裏には、そうした心の叫びがある。だからこそ、面接の場を、過去はどうであれ今、自らの思いを話せる場にすることが大事です。そして治療者は、(必要な最低限の枠組みは守ったうえで)面接の場の中では、話されたことのありのままを受け止めていく。この「話す→受け止める」ことで生まれる信頼関係が大事です。

信頼関係を土台として、面接の場で「自分は自分でいい」という認められた(認証)体験を積み重ねていく。この繰り返しが症状の改善のみならず、その後の人生・価値観に大きな意味を持つと感じます。シンプルな「かかわりの場」を設定することで、これまでの様々なかかわり方を見つめなおし、調整していく。そこに「かかわり」としての面接の意義があります。

②診断や診立ての手段としての面接

様々な面から情報を集め、総合的に診立てを作っていきます。

こころの病気は、扱う臓器が「脳」という複雑な機能のものであり、かつ心理・社会的な要素も大きく影響するため、現時点では直接的な検査で診断することはできず、病歴や症状など、おもてに出ている情報を組み合わせていくことで診断せざるを得ません。(捜査に例えれば、直接の証拠がどうしても得られないので、周辺の状況証拠を多面的に、緻密に集め、組み立てていくイメージです)そうした、多面的な情報収集から診断、見立てにつなげていくことも、面接の役割の一つです。

情報を集める際には「時間による変化に着目して」「その人全体について多面的に」「言葉の内容以外も踏まえて」探すことが大事です。それでは、どのような視点で情報を集めるか、見ていきます。

(1)主訴(何に一番困っているか)

一見単純ですが大事です。特に、関係者や治療者から見た「主訴」と本人にとっての「主訴」が違うことがあり、そこからご本人の「何を大事とみなすか」の個性が見えてきます。また、治療者はとかく診断や標準的治療から考えがちですが、一緒に治療行為を行う上では本人の「主訴」を土台とすることがしばしば有効です。

(2) 今どんな症状があるか(横断的視点)

今どんな症状があるかを聞いていきます。症状の組み合わせからおおよその状態や診断の予測が立つ場合があります。今の症状については、本人及び治療者の主観や推測が入りにくいため、治療者間でのばらつきが少なく、研究分野でよく用いられる診断基準(DSM-Ⅳ)では、これが診断にも非常に重視されます。ただしその人に適した治療方針を組み立てるための情報は十分ではなく、(3)以降ほかの情報も集める必要があります。

(3) 症状、状態はどのように時期によって変化したか(縦断的視点)

症状や状態が、時間変化に伴ってどのように変化したかも、重要な情報です。急に出現したら体の病気を考え、トラブル時のみ悪化するなら心理的な要素が強いなど、診断そのものにとっても重要ですが、社会生活と症状のかかわりが見えてくるなど、本人の個性や強みを見つけるうえでも大事です。

(4) その人全体の情報(体の病気の既往、生活・交流パターンなど)

仮におなじこころの病でも、その人の考え方や個性・環境などによって、有効な対応方法が大きく異なる場合があります。そのため、以下のような「その人全体の情報」を集めることが、特に治療方針を話し合っていくために非常に重要です。

●これまでの体の病気(既往歴)
甲状腺の異常など、体の病気が原因でこころの症状が起こる場合があります。また、持病の薬とこころの薬の飲み合わせ等もあるため、参考とします。
●ご家族にこころの病の人はいるか(家族歴)
一定の遺伝的要素があるこころの病もあるため、お聞きします。また、実際にそのご家族を見て色々な思いがあると思われます。
●これまでの経歴、学校や職場での様子等(生活歴)
これまでの社会、他者とのかかわりを見立てるうえで大事です。また、かかわり方が一定か、最近大きく変わったかも、診断、治療双方にとって大事です。特に発達障害など、元来のかかわり方のパターンの把握が重要になる場合は、学校時代の通知表の写しをご持参いただくなど、詳細に聞くことが診断のため重要です。
●他者や社会とのかかわり方のパターン
治療に踏み出すうえで、周囲とのかかわり方を振り返ることは非常に大事です。特に、かかわり方のくせが原因で苦しんでしまう場合は、そこへの介入が大きな意味を持ちます。
●1日の生活の流れ
症状が重くなると、生活が崩れます。そのため、生活状況をみるとおおよその重症度が推測できます。また、慢性的なリズムの乱れが症状に影響していると考えられるときは、治療の中でその調整を扱っていきます。
●環境面(同居者の有無、職場との関係、福祉スタッフの有無等)
サポートの強さの把握は、治療方針を考えるうえで非常に重要です。また、逆に家族や職場との関係のこじれが症状の引き金になることもあり、必要時は関係性につき相談、調整を考えていきます。
●こころの病や薬物療法についてどう思っているか
こころの病、および薬物療法に対しての本人の思いは様々であり、そこを無視して治療計画を立てることはできません。見立て、診断が決まった後も、ご本人の思いを第一に考え、治療法の選択・調整をしていきます。
●人生観、目標
何を大事にして、何を目標とするかは様々であり、そこを無視して治療計画を立てることはできません。また、目標や人生観がぶれて迷い、症状につながる場合もあるので、その場合は面談の中で、これからを考えることが大事になります。

(5) 言葉の内容以外の要素

(4)までの内容は、おもに文字や会話の文字内容として出てくるでしょう。しかし、それが情報のすべてではありません。面接の中では、話し方、呼吸の状態、表情、質問への反応など、非言語的な情報が非常に多く行き来します。これらは情報を解釈するうえで非常に大事な「文脈」の役割を果たします。

症状が典型的であったり、強い要素(興奮が強いなど)がある時には、詳細を聞かずとも診断や治療方針が立つこともあります。逆に、診断が難しかったり、繊細に治療方針を考える必要がある時には、細かく質問することが必要になります。

③治療としての面接

診断(診立て)、治療方針を共有しつつ、必要に応じ気づきや問題解決を促します。

面接は、それ自体が治療としても大きな意味を持ちます。大まかに分類すると、以下の4つの意味を持ちます

(1) 診断、見立てを伝える面接

情報を集めたうえで、現段階での診断をお伝えします。ただし、状態が典型的でない場合は断言まではできないことも多く、その場合は「現時点での見立て」として伝え、合わせてほかにどのような可能性があるか(鑑別疾患)についても伝えます。

こころの病に対して、ご本人の持つ印象は様々です。そのため、診断の面接の段階でどのような印象を持っているかも合わせて見立てていき、負担や抵抗が少ない形で伝えていきます。また、時には病気に対してイメージがつかめなかったり、一面的な見方になっている場合もあります。そうした際には、これがどのような病気か、わかりやすい形で情報提供を行います。

ここでどれだけ診断、見立てについてしっかり共有できるかが、その後治療を続けていくうえで、非常に大きな意味を持ちます。

(2)治療方針を共同して組み立てる面接

診断、見立てから必ずしも治療法は一つには決まりません。たとえば、幻聴の強い統合失調症の方であれば、まずはしっかり薬物療法をお願いする、といった形で決まるのですが、ストレスの要素が強いうつ状態の方(ただし、環境は変えにくい)だと、

といった具合に、いくつもの選択肢がありうる局面が出てきます。

こうした場合に、前もってご本人の価値観などをお聞きしたうえで、どの方法をとって、どう治療計画を組み立てるか、まさに共同の作業になります。面接により相手を知り、お互いの関係性があるからこそ、相談によりその人にとっての最善の治療計画が組み立てられます。同じく薬を出す結果になっても、こちらから一方的に処方するか、共同で組み立てた中での処方となるかで、全然違ってきます。薬の効果、副作用も変わってきますし、何よりその結果(効果・副作用)をどうとらえて、どう修正するかが大きく違ってきます。

(3) 会話の中で気づきを得る面接

(1)(2)は、診断から共同の治療にうまく入る媒介としての面接でしたが、より治療に特化した、それ自体が治療になる面接もあります。(狭い意味での「治療面接」)

まず一つ目は、「気づく」ことで治療に向けていく面接です。専門的に言えば精神分析、ロジャース式カウンセリングなど方法は様々ですが、一般の面接でもそのエッセンスは生かされます。心因の強い落ち込み、不安などの場合、しばしばそれを無意識に押し込めて「なかったこと」にしてしまうことが原因となります。

確かに心理的負担の多い社会生活ではおしこめる必要があったかもしれません。しかしそれを、「心理的に守られている」面接の中ではあえて話していき、おしこめたものを表に出していくことで、見えなくなっていた自分の本当の悩みや葛藤に気づいていきます。

悩みや葛藤も表に出れば、それをどうするか、解決の方法もおのずと見えてきます。仮に自分だけでは解決策がなくとも面接の中で、治療者を相談相手にしつつ答えを探すこともできます。

(4) より問題解決に特化した面接

もう一つの方法として、より問題解決に特化した面接があります。近年普及してきた「認知行動療法」は、より具体的に、自分の中にある問題を解決して症状を改善させていく方法です。具体的には

が何なのかを、治療者と一緒に見つけていき、必要ならくせを徐々に修正したり、問題解決のコツを学ぶなどして、生活・考え方・人間関係などに伴うストレスを減らし、その結果落ち込みを改善したり、ぶり返しにくくする方法です。一見理屈重視にも見えますが、近年の研究では共通して「認知行動療法の効果を上げるためには治療者との関係(治療同盟)が重要」との指摘がされています。こうした技術的な方法でも、土台としての面接の存在が重要といえます。

まとめ

聴く、伝えるの積み重ねで面接を作っていきます。

このように、一見ただ話をしているだけに見える面接にも、関係性、診断、治療のそれぞれにとって大きな意義があります。そしてその潜在能力を十分に生かすために、治療者は、全身で「聴く」「考える」「想像する」「伝える」ためのトレーニングを、日々行っていくことが求められます。

自分もまだ至らない点は多々あるかとは思いますが、日々一つでも改善するよう努めていきたいと思う所存です。