単剤化・減薬

慎重に、必要な薬に整理する

以前は、症状を抑えるために多剤・大量の処方がありましたが、今は副作用の点などから、単剤・少量の処方が推奨されています。

 

処方を始める際には、症状を見極め、なるべく種類少なく、最小限の量での処方を心がけています。

 

一方、減薬などの処方整理の際は、離脱症状などに注意が必要のため、慎重に、徐々に行っていくのが重要です。

もくじ

   

はじめに:多剤大量療法の問題

健康面・副作用などの問題が指摘されています。

 精神科での「多剤大量療法」の問題が最近多く言われるようになっています。たとえば統合失調症のばあい、現状でも半数以上が2種類以上、入院者の中では約4割が3種類以上使用しているとの研究結果も発表され、諸外国には見られない日本だけの問題として、改善が求められています。では、具体的には、多剤、大量処方ではどのようなことが問題になるでしょうか?

問題1:副作用が強く出る

個人差はあるものの、多くの副作用は薬の量に比例します。そのため、多剤とくに大量処方になると、副作用は強く出やすい状態になります。また、多種類使用していると、どれが原因かが不明瞭になり、対策もしずらくなります。ともすると、副作用を止めるために副作用止めがさらに増えてしまいます。

問題2:生活能力が落ちる場合がある

多くの向精神薬は、なんらか「過敏さをとる」作用があります。言い換えると「すこしぼーっとする」作用があります。多剤大量療法になると、それが強くなりすぎ、常に「ぼーっとした」状態(過鎮静)になってしまいます。それで症状が目立たなくなることもあるのですが、少なくとも考えたり、物事をする生活能力は大きく落ちてしまい、合わせて症状を自分でコントロールする力も落ちてしまいます。

問題3:薬の依存になることがある

特に睡眠薬や抗不安薬(ともにベンゾジアゼピン系薬と呼ばれます)は、効果がすぐ出てわかりやすい一方で、一時的な作用しかありません(対症療法)。そのため、こころの病に対する根本的な治療なしにこうした薬を多く使ってしまうと、次第に「薬がないと落ち着かない」依存状態になってしまいます。

問題4:過量服薬の問題

「薬がないと落ち着かない」状態の延長で、つらい時に「いつもより多く飲めば落ち着く」と考えて、多量に服薬してしまう危険があります。過量、大量服薬になると、普通の量では出ないような強い副作用(呼吸が浅くなるなど)が出て命に係わる場合もありますので、決して行わないでください。

問題5:どの薬が効いているかわからない

たとえば、A、B、Cの3種類を同時に使って症状が改善した場合、この3つのうちどれが効いているかわかりません。「効けばいい」との意見もありますが、安定後、薬を減らしたり中止したりするときに困難をきたします。また、症状が悪くなった時も、どれが有効かわからず、全部増やすなどなってしまいます。

このように問題が多い多剤大量処方なのですが、では、なぜ日本でこの治療法が広まっていたのでしょうか?周囲の偏見や、これまでの精神科政策など、様々な要素が言われていますが、単純に言うと、以前は、「医者だけが、薬だけで、症状すべてを取るモデル」で治療してきたからだと考えます。

このモデルだと、医者が薬を処方し、まだ症状が残っていれば、症状がなくなるまで、処方を足していかざるを得なくなります。その結果、はじめの症状がすべて消えた時には多剤大量処方となり、しばしば副作用が出現し、その副作用を止めるためにさらに処方を増やす、という悪循環に至ってしまいます。このモデルで考えると、頑張れば頑張るほど、さらに多剤大量になってしまいます。

そのため、処方の単剤化・減薬を考える場合は、目標の立て方(治療のモデル)そのものを転換する必要があります。一言でいうと、前述のモデルから、「①本人・関係者が共同して、②心理的アプローチも含め、③生活の向上を目指す」モデルへの転換です。具体的にどうするか、見ていきます。

対策1:本人・関係者が共同して治療にあたる

医師だけでなく、ご本人や関係者も一緒に治療に当たれると、その分治療にエネルギーを注ぐことができ、効果が増します。具体的には、次の三者の協力が大事です。

●医師以外のスタッフが協力する

多くの場合、こころの症状には、医学的な面のみならず、心理面、環境面、社会的状況などが影響し合っています。医師は主に医療面から見立て、治療しますが、その他の面を得意とするスタッフが協力できると、より多面的・包括的に取り組むことができるようになります。

●本人が治療に主体的に取り組む

根本的なところで、自分の状態をコントロールするのは自分自身です。自分自身が、受け身なまま治療を受けるのと、病気や症状の勉強をして自ら主体的に対策を相談するのとでは、同じ治療でも効果が大きく異なってきます。理想を言えば、治療者の専門知識や意見をうまく活用して、自分なりの対処法を作り上げていけるといいでしょう。

●家族や周囲の人が勉強し、本人を助ける

生活の中では、ご家族や周囲の人とのかかわりが多く発生し、本人に対し良くも悪くも影響を与えます。ご家族や周囲の方が、本人の症状にはどう対処したらいいかを学び、それを実践できるようになると、まるで選手にいいコーチがついたかのように良好な効果が期待できます。

このように医師以外の協力体制が有効に働くと、主体的な取り組みの結果状態も改善し、結果として必要な薬の量・種類が減少してきます。

対策2:薬の治療と、心理社会的なアプローチを併用する

言い換えると、「本当に薬が必要な状況」に対して適量の薬を使い、「ほかのアプローチが望ましい状況」では薬よりも心理社会的介入を優先することです。

多くの場合、不要な多剤療法は、たとえば「ストレスからの落ち込みにすぐ抗うつ薬などを使う」「今後への葛藤からのイライラに抗精神病薬を使う」など、本来は心理的介入が望ましいところに薬で対応することから始まります。(逆に、内因性うつ病や統合失調症の急性期は、脳内物質のレベルでバランスを崩しており、心理的介入の効果は薄く、的確に薬物療法を充分量行う必要があります)

症状それだけではなく、その背景や文脈を見ていき、本当に薬が必要かを一つ一つ判断していくことで、不要な多剤・大量処方を予防していくことができます。

対策3:「症状の撲滅」より「生活の向上」を目標とする

「症状をすべてなくさなければ失敗」と考えると、少しでも症状が残る限り、どんどん薬が(症状がなくなるまで)増えていくことになります。しかし、症状は「一つでもあったら失敗」なのでしょうか。たとえば「少し幻聴はあるけど生活には影響しない」「時々不安になるが、数十分したら治るので、なんとかなる」など、症状はあってもそれと共存できる場面は実際には数多くあります。また、多剤大量療法で「初めの症状は全くなくなった」としても、その代わりに様々な副作用や生活能力の低下に悩まされる場合は少なからずみられます。

生活に打撃になる症状はしっかり治療しつつも、その他のものはうまく対処し受け入れていく。この両面を持てると生活の質は上がりますし、結果として必要な薬の量や種類も減少してきます。

このように、治療モデルのあり方を転換することで、結果として「多剤大量療法」から「単剤・減薬」の方向に持っていくことが可能です。より具体的な薬物療法の方法について、以下に述べていきます。

単剤治療を行う方法

なるべく1種類ごと、じっくり効果と副作用を見ます。

方法論1:原則として、単剤かつ少量から治療を始める

精神科の薬を使う場合は、原則として単剤で開始します。そして、副作用の出方には個人差が大きいため、可能な限り少量から始め、その後増量する形で調整していきます。症状が差し迫っており、すぐに効果を出す必要がある時が例外となりますが、その場合は、副作用の可能性と対策を考慮、相談の上行います。

方法論2:効果と副作用を見つつ量を増減する

効果と副作用を踏まえて、量を調整します。副作用はすぐ出るものから、1-2週して出る場合もあります。効果は、睡眠薬はすぐ、抗精神病薬は数日、抗うつ薬は1-4週ほどが目安です。副作用が強く出れば早期に変薬等を考えますが、効果は出るまで時間差があるため、すぐに無効とは判断せず、やや待ったうえで量の調整を行います。

方法論3:最大量で無効の時は、追加ではなく変薬する

無効の場合は、副作用がない範囲で増量し、引き続き効果を判定します。最大量まで使っても効果不十分の時、他の薬を追加したくなりますが、緊急性が高い場合を除き、原則として「徐々に変薬(別の薬に変える)」する形をとります。もしそれでも無効なら再度変薬を行い、合う薬を見つけるまで行います。こうすることにより、その人にとってどの薬が有効かも見えてきます。

方法論4:補助薬は、原則として短期間に限定する

症状が差し迫っている場合は、方法論3のようにゆっくり薬を試せない場合があります。その場合も、可能な限り病気への主剤は複数にせず、補助的な薬を追加することで乗り切ることを試みます。その場合も、あくまでも期間は可能な限り短期間にとどめ、安定後は単剤に戻せるよう努めます。

方法論5:やむない場合のみ、単剤に戻すことを想定しつつ2剤使用する

主剤、補助薬を用いても症状が切迫しているとき、もしくは補助薬では効果が期待できないときに、一時的に主剤を複数にすることがあります。その際は、詳細な経過観察から、どちらがより有効かを見極め、安定後は再度単剤に戻せるように努めます。

減薬・処方整理の方法

焦らず、時間をかけて行うことが原則です。

原則:焦らず、時間をかけて徐々に行う

では、すでに多剤・大量を使用している場合、どのように減薬、整理して単純化するでしょうか。原則としては「焦らず、ゆっくり」行います。すでに脳が現在の処方に慣れていることが考えられるので、急な減薬をすると強い離脱症状が出たり、大きく調子を崩す危険性が強いのです。そのため、可能なら処方の変化の経過とその際の効果・副作用の情報を集め、比較的減量しても問題が少ないと思われるものから徐々に減薬、整理していきます。

方法1:似た薬をまとめる

たとえば、抗不安薬が3種類出ているなど、似た種類の薬が多種類出ている場合があります。その場合は、最大量に注意しつつ、似た薬は可能な限り1種類にまとめます。

方法2:飲む回数を減らす

薬を継続する場合に、まとめることで飲む回数を減らせる場合があります。ただし、回数だけ減らすとむしろ副作用が出やすくなることがあるため、副作用に注意するとともに、他の減薬と併せて行うことが有効です。

方法3:置き換える

短期間で効果が強く出る薬など、直接の減薬がやりにくい薬があります。その場合は、あらかじめ、減薬しやすい似た薬に置き換えていくと、その後に減薬をしやすくなります。

方法4:量を減らす

状態が安定しているとき、もしくは症状に比べ副作用が目立つときには、徐々に薬を減らしていきます。ただし、必要な量よりも量が減ると症状がぶり返すため、慎重に経過を見ながら減量し、もしぶり返す兆しがあれば速やかに量を元に戻し、悪化の予防に努めます。なお、統合失調症、躁うつ病の場合は、薬の継続が再燃予防に必要なため、整理の上で継続することが大事です。

方法5:種類を減らす(1種類ずつ中止する)

比較的、重要度や効果が低いと思われる薬から、徐々に減量の上中止し、種類を減らしていきます。

方法6:中止する

不眠症や不安障害など、必ずしも薬の長期継続が必要ないこころの病では、減薬が成功した延長で、最終的には薬をゼロにすることも目標になります。ただし、少量から中止する場合の危険は、これまでの減量と比べて大きいのも事実です。

そのため、リスクを想定しつつ中止を目指すか、安全策で少量の薬を続けるかをまず相談の上、もし中止する場合は、それによる短期的危険(離脱症状)、長期的危険(再燃)の危険を踏まえ、もしその兆しがあれば再度薬を再開することを約束の上、中止を行います。なお、統合失調症、躁うつ病、改善すぐのうつ病など、再燃予防に薬の継続が必要な場合は、中止は行いません。

減薬・処方整理を行う時の注意点

変化に慣れるまで、一時不調になりうることなどに注意です。

注意点1:変更の途中では不調になることあり

薬を変更するときは、慣れるまでの間、個人差はあるものの一時期不調になります。慣れると調子が戻る場合が多いです。ただしそこで動揺してしまうと、処方整理がうまくいかないのみでなく、症状自体が不安定になってしまいます。なので、処方整理・変更を行う場合は、慣れるまでの間の不調は想定の上、気持ちの準備をして行うことが大事です。

注意点2:変えた薬が相性が悪いと、悪化することがある

変薬した場合、「変えたのだからよくなる」との想定をすることは少なくありません。しかし実際は、相性がいいかはわからず、相性が悪ければむしろ症状が悪くなることもあります。(その場合は元の薬に戻すか、さらに別の薬に変薬)その可能性も想定したうえで、処方整理、変更を行っていく必要があります。

注意点3:どうしても複数処方が必要なこともある

たしかに単剤、少量の薬が望ましいのですが、人によっては、どうしても複数種類を充分量使用しないと状態が安定しない場合があります。一番の要点は「生活に支障がなくなる」ことなので、そのためにどうしても複数種類が必要なことがあることをお伝えいたします。

注意点4:期間は長くかかることが多い

安全に処方整理を行うには、特に外来の場合、徐々に時間をかけて行うことが大事です。その結果、特に多剤大量を使用している場合は、その整理と適量の判断には、期間と試行錯誤が必要になります。